―― 若い永和の夜市を歩く ――
樂華夜市に向かうたび、永和という街の温度を思い出す。
台北市のすぐ南にある住宅街だが、夜になると空気が変わる。
台北市内の観光夜市とは違い、ここには生活の熱気がそのまま残っていた。
新北市の原宿のような若さ
夜市の入口に立つと、人の流れが一度に押し寄せてくる。
永和周辺には学校が多い。若い学生の群れと、仕事帰りの家族連れが混ざる。
年齢層は台北市内の夜市より若い。歩く速度も早く、声がよく通る。
道幅は広く、両側に店が続き、そのあいだを屋台が埋める。
台湾の夜市ではよくある構造だが、樂華の特徴は密度のバランスだった。
混みすぎず、かといって隙間もない。歩きながら人の波に合わせ、どこかで流れを変える。
入口からしばらく歩くと、通りの熱気が体にまとわりついてくる。
服屋、靴屋、文房具、アクセサリー。買い物客の声が絶えない。
その喧騒に、揚げ油の匂いと香辛料の香りが重なる。
阿爸の芋圓に立ち止まる
樂華夜市で最も人が集まる店のひとつは、阿爸の芋圓だった。
看板は派手ではないのに、店頭だけ明らかに人が溜まる。
サトウキビ氷の上に、タロイモのペーストと芋団子を載せるだけ。
ただ、それがこの夜市の象徴のように見えた。
普通のかき氷とは違い、氷そのものがサトウキビの香りを帯びている。
燻したような甘さで、舌に残らずすっと引く。
タロイモのペーストは泥のように重たく、艶のない色をしていた。
しかし、その素朴な見た目が夜市の雑然とした空気と合う。
歩きながら食べるより、店の前で立ち止まり、じっくり味わう客が多い。
郭記の麻辣臭豆腐と油飯
夜市の中ほど、屋台の列がいったん途切れる場所に郭記があった。
古くから続く店だと聞く。
麻辣スープで煮込んだ臭豆腐は、店の前を通るだけで匂いがわかる。
はじめは刺すような香りに感じるが、次第に食欲を誘う香辛料の匂いに変わる。
スープには鴨血が沈み、柔らかく煮崩れる寸前だった。
永和では、この組み合わせが好まれているらしい。
油飯も売られていて、炊き込みご飯のような香りが漂う。
小さな店だが、回転が速く、客が途切れない。
夜市の中央で、ひとつだけ落ち着いたテンポがある。
旗魚串の列を見る
夜市の奥のほうへ進むと、列ができている屋台があった。
旗魚串の店だ。
カジキマグロのすり身のなかに、ゆで卵を丸ごと入れて揚げる。
衣は薄く、具の重さが手に伝わる。
揚げたてを受け取ると、湯気で袋が曇る。
味は単純だが、これが夜市では力強かった。
食べながら歩くにはちょうどよく、並ぶ客も多い。
揚げ油の匂いが道に残り、奥へ進むほど香りの層が重なっていく。
屋台の配置と流れ
樂華夜市は、初めて訪れると長く感じる。
だが、実際には永平路のまっすぐな区間だけが中心だ。
周辺の路地にも屋台は広がっているが、歩く導線は自然と一本に収束する。
服屋の静かなゾーン、飲食屋台の熱いゾーン、デザートの甘いゾーン。
区画ごとに匂いが変わる。
夜の終わり
遅い時間になると、人の密度はゆっくり落ちていく。
屋台の火も弱まり、食器を片付ける音が通りに残る。
昼間は静かな住宅街が、この数時間だけ別の姿を見せていた。
夜市の外へ出ると、交通量の少ない道路が広がる。
ネオンの光が背後に薄れ、熱気はすぐに途切れた。
住所: 234新北市永和區永平路
営業時間: 16:00 – 24:00 (店舗により異なる)
アクセス: MRT頂渓駅 1番出口から徒歩約10分。永和路をまっすぐ進むと着く。
地図: https://maps.app.goo.gl/qSvYqNwX5ccacAp57
新北市を代表する大型夜市。「阿爸の芋圓(タロイモ氷)」は必食。五草車中華麵食館からも徒歩圏内。
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