―― 歩かずに歩く夜市 ――
大橋頭駅を出て、延平北路の車道に沿って進む。
夕方の光が弱まり、通りに屋台の灯りが滲むころ、延三観光夜市は静かに始まる。
最初に気づくのは、人よりもバイクの多さだった。
歩かない夜市という構造
延三夜市は、他の夜市とは少し違う。
ここは歩いて買い食いをする場所ではない。
屋台の前には、店に向けて斜めに停められたバイクが並ぶ。
客はエンジンを切り、短く注文し、数分で食べ終えて走り去る。
まるで、通り全体がドライブスルーの集合体になっているようだ。
観光客が歩道を歩きながら屋台を眺める一方で、地元の主役はあくまでバイクだ。
彼らの動きがこの夜市のテンポを決める。
屋台の前に立つと、すれ違う排気音が一定のリズムを刻む。
延三の空気は、この速度から生まれていた。
ミシュラン密度の異常な高さ
延三夜市は派手な通りではない。
提灯やネオンの飾りも少なく、観光写真に映えるタイプの夜市ではない。
それなのに、この短い通りにビブグルマン選出店が集中している。
大橋頭老牌筒仔米糕。創業50年以上の店で、朝から行列ができる。
米糕は小さな器に詰められ、蒸したもち米に控えめな肉燥が染みていた。
味は素直で、噛むごとに香りが強まる。
施家鮮肉湯圓。餅のような皮の中に、熱い肉汁を抱えた団子が入っている。
表面は柔らかく、口に含むとすぐに溶けていく。
その奥にある豚肉の餡が、ひっそりと主張する。
高麗菜飯と原汁排骨湯の店も外せない。
キャベツの炊き込みご飯は、香りが軽く、腹に重く残らない。
排骨湯は澄んだスープに骨付き肉が浮かび、骨の周りの薄い脂が静かに広がる。
どの店も観光客向けの派手さはない。
ただ地元の人々の舌に合わせて、長い時間を重ねた結果、評価がついてきた。
その蓄積が、今日の延三夜市の密度になっている。
大橋頭魯肉飯とのつながり
以前書いた大橋頭魯肉飯も、この夜市の中にあった。
幼肉と控肉を重ねた、あの肉の地層のような一杯。
延三夜市を歩くと、その店がこの通りの文脈の中にあることがよくわかる。
米糕、湯圓、排骨湯、魯肉飯。
この通りの小吃はどれも似た温度でつながっていて、どれも「ごはん」の位置にある。
食べ歩きの軽いスナックではなく、夕食の延長としての料理。
延三夜市の「硬さ」は、こうした料理の並びから生まれているのだと思った。
甘味の少なさと、夜市の硬派さ
延三夜市を歩くと、気づくことがある。
若い人に人気のタピオカや映えるスイーツがほとんどない。
代わりにあるのは、純糖麻糬の小さな屋台だった。
柔らかい餅にきな粉をまぶしただけの素朴な甘味。
あるいは豆花の静かな甘さ。
甘味の種類が少ないことで、この夜市が「遊び」ではなく「食事」に軸を置いていることがはっきりする。
歩いて回る場所ではなく、必要なものを食べに来る場所。
その硬派さが、この通りの印象を決めていた。
夜が深まり、速度が落ちる
遅くなるにつれ、バイクの動きがゆっくりになる。
屋台の鍋が空に近づくと、店の灯りも弱まる。
通りの端まで歩いて戻るころには、バイクの列も途切れていた。
夜市が終わると、延平北路はただの夜の道路に戻る。
昼間の問屋街と住宅街の姿が、静かに輪郭を取り戻す。
延三夜市は、華やかな夜市の対極にあった。
速さと素朴さで成り立つ、小さな台北の夜の台所。
食べ終わった余韻だけを残して、通りはまた暗くなる。
住所: 103台北市大同區延平北路三段
営業時間: 18:00 – 24:00頃 (店舗により異なる。米糕などは朝から営業)
アクセス: MRT大橋頭駅 1番出口から徒歩すぐ。台北橋のたもとから北へ伸びる通り。
地図: https://maps.app.goo.gl/2CcYQESZwwdZrmEZA
「食べる」ことに特化した硬派な夜市。歩行者天国ではないのでバイクに注意。ビブグルマン掲載店が多数点在する。
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