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台北・大安区 師大夜市についての記録

台電大樓駅を出て、龍泉街のほうへ向かう。
夕方の光がまだ残る時間帯でも、通りには人が集まり始めていた。
ただ、夜市に足を踏み入れて、最初に感じたのは「静かさ」だった。


縮小の歴史と、住民の勝利

師大夜市は、かつてはもっと広かった。
2010年代前半までは、住宅街の路地裏まで屋台が広がり、
夜になると、街全体が飲食の匂いで覆われたという。

だが、住民の反対運動が起こった。
騒音、油煙、路上駐車。生活が夜市に浸食されていく不満。
行政も介入し、多くの屋台が撤退を迫られた。

その結果、生き残ったのは龍泉街や泰順街といった限られた通りだけだった。
今の師大夜市は、かつての喧騒の影を残しながら、
どこか「落ち着いた」学生街の夜として存在している。

歩きながら、都市における生活権と観光資源の境界線を思った。
夜市が縮小したのではなく、生活が戻ってきたのだとも感じた。


許記生煎包の熱気

龍泉街の角を曲がると、行列が見えた。
許記生煎包だった。

鉄板の上には、生煎包がぎっしり並んでいる。
底面は油で焼かれ、上部からは蒸気が立つ。
皮は薄く、片面は焦げ、片面は柔らかい。

番号札を取って待つ。
小さな紙片に数字が印刷されていて、
このシステムが店の人気を物語っていた。

受け取った生煎包をひとつかじると、
中から熱いスープが飛び出す。
焼きと蒸しのあいだにあるような味わい。
これまでの小籠包の記事を思い出しながら、
「焼き」という選択肢の強さを実感した。

学生も旅行客も、黙って番号を待つ。
鉄板の音だけが、店の前に響いていた。


師園鹽酥雞の匂い

少し歩くと、また別の匂いが流れてきた。
師園鹽酥雞だった。創業30年以上の店らしい。

揚げ油の音に混じって、刻んだニンニクの香りが強く漂う。
注文を終えると、揚げた塩酥鶏に大量のニンニクが混ぜられる。
袋を開けるだけで、匂いが周囲に広がった。

この強さは、学生街ならではなのだろう。
授業終わり、サークル帰りの学生たちが、
その匂いを気にすることなく持ち歩いている。
夜市を歩く動線の途中で、勢いよく袋を振って食べる。

油とニンニクに振り切った味だが、
それがこの街には自然に見えた。


大学街としての夜市

師大夜市を歩くと、他の夜市とは違うものが目につく。
服、アクセサリー、雑貨。
食だけでなく、若者が「買い物をする場所」として機能している。

近くに国立台湾師範大学がある。
留学生も多く、通りにはさまざまな言語が混じる。
授業帰りの学生たちが、
小さな屋台とファッション店を行き来していた。

夜市というより、「大学街の商店街」に近い。
その中に、縮小の歴史や、古い屋台の名残が静かに残っている。


夜の終わりに向かう通り

奥へ進むと、屋台は少なくなり、
住宅街の灯りが戻ってくる。

夜市の匂いと雑踏は、決まった範囲の中だけに留まる。
それが、過去の騒動の結果なのだとあらためて理解した。

学生の姿も徐々に減り、
龍泉街の明かりだけが細く続く。
屋台の片付ける音が響き、
通りは静かに夜へ戻っていった。

師大夜市。
かつての喧騒が削ぎ落とされ、
生活と学生文化のあいだに収まった小さな夜市だった。


師大夜市

住所: 106台北市大安區師大路39巷

営業時間: 16:00 – 24:00 (店舗により異なる)

アクセス: MRT台電大楼駅 3番出口から徒歩約5〜8分。師範大学の裏手エリア。

地図https://maps.app.goo.gl/pFMgSNCVqFXKnsW49

学生街らしいファッションとグルメが混在する夜市。「許記」の生煎包と、「師園」のニンニク唐揚げは行列必至の二大巨頭。


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