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誰でもできるナシカンダー、についての記録

ナシカンダーの店は、旅行者にとって少し敷居が高い。

ガラスケースの中には茶色い料理が山のように積まれ、
店員は忙しそうに皿を流し、注文はマレー語で進む。
メニューも値段も書かれていないことが多い。

興味はある。
匂いも気になる。
でも、初見だと一歩目が重い。

だが、ナシカンダーの注文は、思っているよりずっと簡単だ。
マレー語を覚える必要はない。発音で勝負する必要もない。

店側はプロだ。
一日に何十皿、何百皿と同じ流れを回している。
こちらが何者で、どれくらい慣れていないかも、一瞬で分かっている。

だから必要なのは、言葉よりも動きだ。
目線と指先と、ほんの少しの英語。

この記録は、ナシカンダーを最小の失敗で食べ切るための手順だ。
「明日行けるかも」と思える程度に、具体的に書こうと思う。


全体の流れ(これだけ覚えておけばいい)

  1. 列に並ぶ
  2. ご飯を盛ってもらう(白米でOK)
  3. メインを1つ指差す(アヤムゴレンが安全)
  4. 追加を1〜2個だけ指差す(ゆで卵/オクラ/キャベツで十分)
  5. カレーをかけてもらう(Mix)
  6. 皿を受け取って席に運ぶ
  7. 小さな紙(伝票)を受け取る
  8. 飲み物を頼む(コーラが無難)
  9. 席に座って食べる
  10. 紙を持ってレジで払う(20リンギット札が安心)

1) 店に入ったら、まず流れを見て列に並ぶ

ナシカンダーの店は、入口からいきなりカウンターが始まる。
レストランというより、作業場に近い。

ガラスケースの中に鍋が並び、揚げ物が積まれ、湯気が立っている。
客は立ち止まらず、自然に列になって前へ進む。

最初のポイントは、焦らないこと。
列が動く速さは一定だが、ゼロではない。
あなたの番が来るまで、10秒だけ目で予習すればいい。


2) ご飯を選ぶ

先頭に立つと、だいたい最初に「ご飯どうする?」の空気になる。
ここで迷わないための答えはひとつ。

白いご飯。

言い方は、英語でいい。
White rice.

それか、何も言わずに炊飯器を見て頷くだけでも通る。
量は多めに盛られがちだが、最初はそのまま受け取ったほうが安全だ。
少なめ交渉は、慣れてからでいい。


3) メインを選ぶ

次に来るのは、おかずの棚だ。
ここがいちばん情報量が多い。

肉の塊があり、魚があり、黒い煮込みがあり、赤いソースがあり、黄色い豆がある。
見た目の時点で、すでに強い。

初心者の安全牌は決まっている。
アヤムゴレン。フライドチキンだ。

赤茶色で、表面がゴツゴツしているやつ。
山積みになっていることが多い。
回転が速いので、揚げ置きでも疲れていない。

言い方はこれで十分。
This one.

指を出して、目線を合わせる。
それだけで皿の上に乗る。


4) 副菜を足す

肉だけで成立するが、皿が単調になる。
油の厚みも増える。

ここで一つだけ「逃げ道」を足す。
ゆで卵、オクラ、キャベツ。

この3つを指させば、それで充分だ。

キャベツは、日本人の舌に一番近い。
オクラは、南国っぽさが出る。
ゆで卵は、味を丸めてくれる。カレーの強さを受け止めるクッションになる。

言葉は不要。
指で示すだけで、皿のバランスが整う。


5) カレーは「選ばない」

ナシカンダーは、カレーを選ぶ料理に見える。
だが本質は逆で、混ぜる料理だ。

どのカレーにするか悩む必要はない。
店員に任せたほうが、結果が一番それっぽくなる。

おすすめはこの一言。
Mix.

あるいは、皿の上で指を小さく回すジェスチャー。
すると、複数のソースが重ねてかけられる。
黒、赤、黄が混ざり、境界線が消える。

もっと汁だくがいいなら、もう一段階ある。
バンジル(Banjir)。

洪水、という意味だ。
ご飯が沈むくらい、遠慮なくかけてくれる。


6) 皿を受け取って、席に運ぶ

ここで注文はほぼ終わりだ。
皿を受け取って、席に向かう。

言うなら、Thank you で十分。
言わなくても成立する。

ナシカンダーは礼儀の文化というより、流れの文化だ。
止めないことが、最大の礼儀になる。


7) 伝票(紙)をもらう

多くの店では、どこかのタイミングで小さな紙を渡される。
金額が書かれている。

これが伝票になる。
レシートではない。
明細もない。

この紙は失くさないほうがいい。
ポケットに入れるか、スマホと一緒に握っておく。


8) 飲み物はコーラで逃げていい

飲み物までローカルに寄せると、急に難易度が上がる。
甘さの世界が始まるからだ。

迷ったらコーラでいい。
世界共通で、失敗しない。

甘いお茶を飲みたいなら、Iced tea でも通る。
もし無糖が欲しければ、No sugar と言えばだいたい伝わる。
砂糖の入っていない、薄いアイスティーが出てくる。

テ・タリにチャレンジするのもありだ。
ただし、頼んでもテ・タリが来ないことがある。
普通のミルクティーや、別の甘い飲み物が出てくることもある。

それでもがっかりしない。
この国の飲み物は、だいたい甘くて、だいたい冷たい。
正解は一つではない。

飲み物は、伝票を受け取るタイミングで聞かれることが多い。
親指を立てて口に当てるジェスチャーをしながら、ドリンク?と聞かれる。
その場で一緒に頼むのが一番スムーズだ。

もしタイミングがつかめなくても問題はない。
席で食べていると、あとから飲み物係が注文を取りに来る。
そのときにコーラなり、Iced tea と言えばOK。


9) 相席して、黙って食べる

席は空いているところに座る。
相席は普通だ。

スプーンとフォークが、湯の入った容器に突っ込まれていることがある。
気になるなら、ティッシュで拭けばいい。
ティッシュは壁か柱に掛かっていることが多い。

食べ方は、混ぜながら。
きれいに食べる必要はない。
そもそも最初から、きれいに盛る料理ではない。


10) 会計は紙を出すだけ

食べ終わったら、紙を持ってレジへ行く。
紙と現金(またはカード)を出す。

言葉は要らない。
向こうが金額を言う。
払って終わり。

ただ、金額は聞き取れないことも多い。
周りがうるさく、発音も速い。こちらも慣れていない。

1人前なら、事前に20リンギット札を用意しておいて出せば確実だ。
普通に盛ればRM10〜15 前後で収まる。
釣り銭の計算は店の人に任せればいい。
細かい交渉も確認も要らない。紙と札だけで完了する。


おわりに:指一本で十分だった

ナシカンダーは、ローカル飯に見えて、実は観光客に優しい。
なぜなら、注文が会話ではなく作業だからだ。

指差して、混ぜてもらって、食べて、払う。
必要なのは、勇気ではなく手順だけだった。

最初の一皿さえ越えれば、次からは「いつもの感じ」が作れるようになる。
それが、この国の食堂の強さだ。


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