―― おいしい環境対策 ――

台湾のカフェでドリンクを頼むと、
日本でよく見るような、ボール紙で作られた紙ストローが出てこない。
代わりに渡されるのは、
プラスチックでもなければ、
いかにも紙という見た目でもない、
少しだけざらついた、不思議な質感のストローだ。
最初は戸惑う。
軽い。
だが、頼りない感じはしない。
氷入りのドリンクに差し込んでも、
しばらくしても、ふやける気配がない。
タピオカを吸っても、腰が抜けない。
「これは何でできているんだろう?」
紙より強く、
プラスチックよりも柔らかい。
味も匂いも、ほとんど感じない。
環境配慮なのは分かる。
だが、我慢させられている感じがしない。
そこが少し不思議だった。
2019年という転換点
2019年。
台湾のドリンク文化は、思いがけない危機に直面した。
政府によるプラスチックストロー提供制限。
代替として一気に広まったのが、紙ストローだった。
だが、結果は明白だった。
折れる。
ふやける。
タピオカが詰まる。
そして何より、味が変わる。
湿った紙の匂いが、せっかくの高山茶の香りを上書きしてしまう。
「環境のために我慢しろ」という正論は、ここでは通用しなかった。
台湾人は、別の選択をする。
味も快適さも捨てないまま、環境に適応するという道だ。
「甘蔗吸管(サトウキビストロー)」という解答
台湾は、かつて「砂糖の島」だった。
今も各地でサトウキビが栽培されている。
砂糖を絞ったあとに残る繊維。
バガスと呼ばれるその副産物は、長らく厄介者だった。
捨てるか、燃やすか、肥料にするか。
価値は低い。
だがここに、発想の転換が入る。
南投のスタートアップを中心に、
このバガスをストローとして成形する技術が生まれた。
乾燥させ、微細化し、植物由来の樹脂と結合させる。
完成したそれは、紙でもプラスチックでもない感触を持っていた。

プラスチックに勝てる理由
サトウキビストローは、実用で勝った。
まず硬い。
シーリングマシンの厚いフィルムを、ためらいなく貫通する。
次に水に強い。
何時間ドリンクに浸っても、腰が抜けない。
表面はわずかにざらつき、
和紙のような質感がある。
だが、味はしない。
少なくとも、邪魔はしない。
よく言われるのが、
「紙より無味、プラより上品」。
台湾人にとって、これは合格点だった。

ゴミが宝に変わる島
流れは止まらない。
サトウキビだけでは終わらなかった。
コーヒーかす。
茶殻。
竹。
台湾各地の農業廃棄物が、次々とストローに姿を変えていく。
面白いのは、香りが完全には消されていないことだ。
サトウキビからは、ほのかな甘い香り。
コーヒーかすからは、微かな焙煎の気配。
それらは「味の汚染」ではなく、
「背景音」として受け入れられた。
飲み物を邪魔しない。
だが、素材の来歴は消さない。
この感覚が、台湾的だ。
循環が実装された瞬間
このストローは、理想論で終わらなかった。
農家は、
廃棄物を売れるようになった。
メーカーは、
安定した国内原料を確保した。
消費者は、
我慢せずに飲める。
結果として、
サトウキビストローは輸出され始める。
ヨーロッパ。
オーストラリア。
プラスチック規制が強まる地域ほど、
台湾製ストローは歓迎された。
タピオカという飲み物だけでなく、
それを成立させる部品ごと輸出する。
台湾は、そこまで含めて一つの産業にしてしまった。

「おいしい」が最強の環境対策
台湾のストロー革命が示したのは、
とても単純な真理だ。
我慢を強いるエコは、続かない。
快適さを更新するエコは、定着する。
このストローは、土に埋めれば半年で分解される。
だが現実には、洗って何度も使う人が多い。
丈夫すぎるからだ。
使い捨てるはずのエコ素材が、
結果として長く使われる。
それを誰も問題だとは思っていない。
おいしく飲めること。
それが守られた瞬間、環境配慮は文化になる。



