―― 轟音の下にある台北の胃袋 ――
突然、会話が途切れる。
耳を塞ぎたくなるほどの轟音が、真上から落ちてくる。
見上げると、着陸態勢に入った飛行機の腹。
思わず足を止めてしまうほど、近い。
ここは濱江市場。
台北でいちばん「空に近い」市場であり、
同時に、いちばん「地面の熱気」が濃い場所だ。
ここは観光地ではない
雙連朝市のような、散歩の延長線の市場とは空気が違う。
ここにいるのは、生活者ではなく、仕事の人たちだ。
仕入れリストを握る業者。
荷台いっぱいに野菜を積んだスクーター。
通路を横切るフォークリフト。
立ち止まると、邪魔になる。
写真を撮っていると、睨まれる。
この殺伐としたスピード感が、
卸売市場であることをはっきり示している。
きらびやかな光と、その裏側
この一帯を語るとき、
どうしても名前が出てくる場所がある。
市場の中心にある、上引水産。
洗練された内装。
立ち食い寿司とシーフード、ワイン。
多くの観光客は、ここを目指してやってくる。
けれど、ガラスの自動ドアを一歩出た瞬間、
景色は一変する。
濡れた床。
踏み潰された葉物野菜。
ダンボールと発泡スチロール。
消費の舞台と、流通の現場。
その二つが、ほとんど無防備な距離で隣り合っている。
野菜と果物の海
正式名称は、第二果菜卸売市場。
名前の通り、青果の量が桁違いだ。
マンゴーが箱ごと積まれ、
蓮霧が山になり、
釈迦頭が無造作に転がっている。
スーパーの棚では見えない「旬」が、
ここでは一目でわかる。
台北中のレストランで、
今日出される野菜や果物。
その多くが、今朝ここを通過していったはずだ。
そう思うと、街の食卓が少し立体的に見えてくる。
料理になる前のエネルギー
レストランで出される料理は、
すでに整えられた作品だ。
味は完成しているし、
物語も用意されている。
濱江市場にあるのは、
まだ何者でもない素材の塊。
飛行機の轟音の下で、
台北という大都市の食欲が、
最も生々しい形で流れている。
きれいな観光に少し飽きたら、
この「胃袋の底」を歩いてみるといい。
そこには、
都市がまだ隠しきれていないエネルギーが残っている。
住所: 104台北市中山區民族東路336號
営業時間: 早朝 – 12:00頃まで (月曜定休の場合が多い) ※上引水産等の飲食店は夜まで営業
アクセス: MRT「行天宮」駅または「中山国中」駅から徒歩約15〜20分。タクシー利用が推奨。
地図: https://maps.app.goo.gl/aYLA9wyaHbL4P1jK6
「台北第二果菜卸売市場」を中心とした巨大市場エリア。松山空港の着陸ルート直下にあり、飛行機見学スポットとしても有名。隣接する「上引水産」での食事とセットで訪れるのが定番。




