―― 甘さで再設計された台湾の朝食サンドイッチ ――
台湾の朝食屋のカウンターに並ぶ三明治は、一見すると日本のそれと区別がつかない。
耳を落とした食パン。ハム。きゅうり。薄焼き卵。
喫茶店やコンビニで見慣れた構成だ。
しかし、ひと口かじった瞬間に脳が混乱する。
想定していた塩気ではなく、はっきりとした甘さが舌に広がる。
この時点で理解すべきなのは、
台湾の三明治は「洋食」ではないということだ。
これは完全に現地化された、台湾の朝食料理である。
透明なマヨネーズ
このサンドイッチの正体を決定づけているのは、パンでも具でもない。
すべては、塗られているマヨネーズにある。
台湾で使われるのは、日本の卵黄主体のマヨネーズではない。
沙拉醤(台湾式マヨネーズ)と呼ばれる別物だ。
色は白、あるいは半透明。
卵白や澱粉を使い、砂糖を多く加えるため粘度が高く、そして甘い。
この甘さは欠点ではない。
安価でパサつきやすい食パン、塩気のあるハム、淡白な卵。
それらを一体化させ、甘い豆漿やコーヒーと合わせるための設計である。
入口に積まれる「三角形」
朝のピークタイム。
多くの朝食屋では、注文前にすでに完成した三明治が並んでいる。
三角形にカットされ、ビニールで包まれ、
カウンターに山のように積まれているそれは、
招牌三明治(看板サンド)と呼ばれる。
これは会話を省略するためのシステムだ。
客は指差し、代金を置き、即座に去る。
中身はほぼ定型化されている。
ハム、卵、きゅうり、そして肉鬆(茶色い綿)。
甘いマヨネーズと肉鬆の塩気が、味のコントラストを作る。
炭火焼三明治
作り置きの冷たい三明治とは対極にあるのが、
炭烤三明治という進化形だ。
注文を受けてから、パンを炭火で焼く。
表面が軽く焦げ、香ばしさが立ち上がる。
ここでは、ピーナッツバターが塗られることも多い。
甘いマヨネーズ、炭の香り、ナッツのコク。
この組み合わせは、夜市や専門店で支持を集めている。
即席の朝食だった三明治は、
こうして「わざわざ食べに行くもの」にもなった。
甘さは欠陥か、適応か
なぜ、ここまで甘くしたのか。
高温多湿な気候でのカロリー補給。
子どもでも食べやすい味への最適化。
あるいは、短時間で満足感を得るための設計。
理由は一つではない。
だが確かなのは、この甘さが台湾の生活リズムに適合しているという事実だ。
しばらく滞在した後、日本に戻ってサンドイッチを食べると、
それが「塩辛く、冷たい」と感じられる瞬間が来る。
味覚が少しだけ台湾側に寄ったということだ。
■ 参考記事リスト
■ 台湾の朝食屋(網羅的な解説)
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