―― 煙突と椰子の木のあいだに降り立つ場所 ――
台湾に何度か来ていると、
空港に降り立った瞬間の「空気の違い」に敏感になる。
桃園は国家の玄関口。
松山は都市の縁側。
そして高雄空港は、最初から少し毛色が違う。
ここには観光都市の華やかさよりも、
働く都市の匂いがある。
煙突と椰子の木
着陸直前、窓の外に見えるのは、
高層ビルでも田園でもない。
中国鋼鉄(CSC)の高炉、
造船所のクレーン、
積み上がるコンテナ。
空港は「小港区(Xiaogang)」という
高雄の重工業エリアのど真ん中に置かれている。
これは偶然ではない。
高雄空港は、
観光のためではなく、
産業と物流に接続するための空港として育ってきた。
街のエンジンルームに、
そのまま滑走路を引き込んだような配置だ。
帝国海軍と南進基地
高雄空港の起源は、
日本統治時代の高雄海軍航空隊にある。
台北(松山)が本土を向いた基地だったのに対し、
高雄は最初から
フィリピン、インドネシア、東南アジアへと
視線を伸ばす南進基地として設計された。
この「南を向くベクトル」は、
戦後も消えていない。
現在も高雄空港は、
ベトナム、タイ、マレーシアなど
東南アジア路線が強い。
台湾を「中華圏」ではなく、
南の海に開いた島として見る視点が、
ここには残っている。
コンパクトシティの象徴
高雄空港の最大の特徴は、
その異常なまでの近さだ。
国際線ターミナルを出て、
エレベーターで下に降りると、
そのままMRT(高雄メトロ)の駅に接続している。
市内中心部まで、約20分。
桃園空港の「遠さ」を知っていると、
この距離感は少し戸惑うほどだ。
巨大ハブではない。
しかし、結節点としての完成度は高い。
高雄空港は、
空と街がほぼ接触しているノードである。
光の回廊
ターミナル内部に入ると、
空間の性格はさらに明確になる。
桃園の第1ターミナルにある
重厚でやや薄暗い雰囲気とは対照的に、
高雄空港はガラスを多用し、
南国の光を積極的に取り込んでいる。
白い床、
抜けるような青、
影のコントラスト。
台北の「湿ったグレー」から、
高雄の「乾いた光」へ。
降り立った瞬間に、
気候帯が切り替わったことを身体で理解させる設計だ。
アジアの片隅へ
高雄空港に直接降り立つという行為は、
台湾を別の角度から読み直すことでもある。
中華的な首都を経由せず、
重工業と港湾都市の入口から入る。
それは、
台湾を「中国の延長」ではなく、
東南アジアと連続する島として捉える視点だ。
煙突と椰子の木のあいだを抜けて、
街へ向かうMRTに乗り込む。
この空港は、
台湾の南側から物語を始めたい人のための入口である。
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