―― YouBikeに乗って塩埕区から中央公園へ ――
高雄の朝は、完成していない。
人も街も、まだ途中にある。
夜の熱気は引ききらず、昼の秩序もまだ立ち上がっていない。
その中間に、短い時間だけ現れる、曖昧な層がある。
店は準備中で、道路は空いている。
システムだけが先に起動している。
自転車に乗って、塩埕区から中央公園まで。
朝の湿度が、どこで、どのように変わるのかを確かめてみる。
塩埕区、蒸気とカオスの朝
朝の塩埕は、まず匂いから始まる。
油と豆乳と、昨夜の湿気がまだ抜けきらない路地の匂い。
頼南華早点の前では、湯気がすでに立ち上っている。
朝の光は低く、建物と建物の隙間を縫うように差し込み、その湯気にぶつかって白く拡散する。
街はまだ完全には目覚めていないが、厨房だけが先に稼働している。
鉄板が叩かれる音。
注文を通すおばちゃんの声。
スクーターが一台、また一台と路地に滑り込んでくる。
豆乳と蛋餅を受け取り、プラスチックの椅子に腰を下ろす。
この時間帯の塩埕は、都市というより何かのシステムのようだ。
人間、火、油、音が、狭い空間に高密度で詰め込まれている。
ここでは朝食が「選択肢」ではなく「動作」だ。
並び、指差し、受け取り、食べる。
街の一部として処理される感覚がある。

黄色い自転車のアンロック
塩埕埔駅の近くで、YouBikeのステーションに立つ。
黄色い自転車が整列している様子は、少しだけ非人間的だ。
カードをかざす。
電子音。
ロックが外れる。
この瞬間、立場が変わる。
私は歩行者ではなく、交通システムの一部になる。
漕ぎ出すと、肌にまとわりついていた湿気が、風に引き剥がされる。
止まっているときには重かった空気が、動き出すことで性質を変える。

愛河という境界線
五福四路の橋に差しかかる。
ここで、街の相が切り替わる。
背後には、塩埕の圧縮された下町。
正面には、前金・苓雅の整然とした区画と広い道路。
愛河の水面は静かだ。
昨夜のネオンの名残はすでに消え、ただ平たい反射だけが残っている。
橋の上では、風の質が変わる。
湿度が一段、落ちる。
都市の呼吸が、少しだけ規則正しくなる。
ここは高雄の境界線だ。
生活の密度が、構造へと移行する地点。

広すぎる道路、街路樹のトンネル
五福三路を南へ。
道が異様に広い。
頭上では、巨大な街路樹が枝を伸ばし、朝の光をふるいにかけている。
緑のトンネルの下を、スクーターの群れが流れていく。
信号待ち。
彼らは仕事へ向かい、私はただ流れている。
高雄の朝には、この奇妙な同居がある。
南国特有のけだるさと、都市のスピード。
どちらかが勝つわけでもなく、ただ並走している。
ペダルを踏むたびに、体が少しずつ乾いていく。
湿度が、都市計画に置き換えられていく感覚。

中央公園、白い余白
中央公園に入った瞬間、視界が開ける。
圧倒的な余白。
地下鉄駅の入口にかかる巨大な黄色い屋根は、朝の光を受けて、静かに浮いている。
塩埕で感じた人間の密度とは、完全に異なる空間だ。
YouBikeをドックに戻す。
ガチャン、という音。
わずか十五分、数キロの移動。
それだけで、私は別の都市に到着したような感覚になる。
エスカレーターで地下へ降りる。
高雄MRTという、もう一つのシステムに吸い込まれていく。
朝の湿度は、ここで完全に切り替わる。




