―― 灼熱の街と、オレンジ色の横顔 ――
台湾の夏は、容赦がない。
午後になると湿度は90%近くまで上がり、歩いているだけで体力が削られていく。
そんなとき、街角で必ず視界に入ってくるものがある。
オレンジ色の背景に、横顔の女性。少しだけ古風で、どこか落ち着いた表情。
Louisa Coffee。
台湾全土に500店舗以上。
観光地にも、住宅街にも、駅前にも、ほぼ等間隔で存在する。
あれは喫茶店というより、避難所に近い。
冷房と椅子と電源があることが、まず約束されている場所だ。
台湾の「サードプレイス」覇権争いの勝者
Louisa Coffeeは、よく「台湾のドトール」や「台湾のスタバ」と言われる。
ただ、実際に使ってみると、そのどちらとも少し違う。
価格はスターバックスの6〜7割程度。
安すぎるわけではないが、毎日使っても罪悪感がない。
空間は、想像以上に寛容だ。
学生がノートPCを広げ、保険の営業らしき人が小声で商談をし、誰も追い出されない。
長居が前提の設計になっている。
この立ち位置は偶然ではない。
Louisa Coffeeは、2006年3月、台北・民生東路のわずか5坪のテイクアウト専門店から始まった。
創業者の黄銘賢は、元スターバックスのバリスタ。
「美味しいコーヒーを、もっと安く」という職人的な動機から、豆の自家焙煎と管理にこだわった。
最初は持ち帰り需要。
その後、「座りたい」という欲求を拾い、席のある店舗へ拡張する。
2019年、店舗数でスターバックスを追い抜き、台湾最大のコーヒーチェーンになった。
高級すぎず、安っぽすぎない。
その中間を正確に突いた結果が、今のLouisaだ。

コーヒー屋だが、「茶」がやたら強い
名前はCoffeeだが、メニューを見ると少し違和感がある。
お茶の種類が、異様に多い。
台湾らしく、ミルクティーやウーロン系が充実している。
中でも印象に残るのが、小農雪点鮮奶茶。
フォームミルクがふわっと乗り、甘さと空気を同時に飲むような感覚になる。
コーヒーなら、莊園級美式。
安いが、薄くはない。
毎日飲む前提で、きちんと調整されている味だ。
フードも実用的だ。
熱圧吐司(ホットサンド)は注文後に焼かれ、朝食にも昼食にもなる。
軽食というには完成度が高い。
注文方法は、ドリンクスタンド方式。
甘さ、氷の量、温度を細かく指定できる。
甘さは、正常糖から無糖まで5段階。
氷も、普通・少なめ・微氷・去冰と選べる。
「去冰」は、氷なしだが冷たいまま出てくるのが台湾らしい。
ここでは、飲み物は嗜好品というより、身体調整ツールだ。
旅のベースキャンプとしての完成度
台湾でカフェを探すとき、
Googleマップを開く前に、まずオレンジ色の看板を探せばいい。
そこには、
冷房があり、
電源があり、
無難で美味しい飲み物がある。
特別な体験ではない。
だが、旅を続けるための機能が、確実に揃っている。
Louisa Coffeeは、観光名所ではない。
ただ、台湾を歩き続ける人間にとって、
最も信頼できる拠点のひとつだ。




