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台湾の地瓜球についての記録

夜市の一角で、人だかりができている。
理由ははっきりしている。

巨大な中華鍋(Wok)の中で、
黄金色と紫色の球体が無数に踊っている。

ザッ、ザッ、という油を切る音。
それに混じって、金属が鍋肌をこする乾いた響きが続く。

何より目を引くのは、店主の動作だ。
大きな穴杓子で、鍋の中のボールを全力で押し潰している。

潰しているはずなのに、
ボールはむしろ膨らみ続ける。

観光客は、その不思議な「呼吸」に目を奪われ、
いつの間にか列に並んでいる。


破壊が膨張を生むという矛盾

地瓜球(ディーグァチウ)、あるいはQQ蛋。

サツマイモボールとも呼ばれるこの菓子は、
蒸したサツマイモとサツマイモ粉(地瓜粉)を練り合わせ、
砂糖を加えて油で揚げた、台湾の伝統的なおやつだ。

普通の揚げ物は、
衣を固めるために触らないのが鉄則とされる。

だが地瓜球は逆だ。
何度も、執拗に、鍋肌に押し付けられる。

熱せられた生地の中の水分は、水蒸気になる。
押し潰すことで、中の空気が均一に行き渡り、内圧が高まる。

圧力を抜くと、
スポンジのように一気に膨らむ。

これを繰り返すことで、
小さな団子はピンポン玉サイズまで成長する。

台湾人は、
「空気を入れる(灌風)」という技術を、
経験として身につけてきたように見える。


断面に現れる三層構造

揚げたてを噛む。

最初に聞こえるのは「カリッ(酥)」という音だ。
その直後、歯は抵抗なく沈む。

中は空洞である。

だが、皮の内側には薄い層があり、
そこが強烈に「モチモチ(Q)」している。

成分は、
サツマイモのペーストと、サツマイモ粉(地瓜粉/タピオカ粉)の混合物。

芋の繊維と、澱粉の弾力。

外はカリカリ、
中はモチモチ、
中心は虚無。

この三層構造が、
台湾人の好む食感の設計図になっているように見える。


余り物から夜市へ

正確な起源は定かではない。

ただし、
農村社会の「余剰作物の活用」から始まったとされている。

サツマイモは豊作になりやすい。
保存しきれない芋を蒸して潰し、粉を混ぜて揚げ菓子にした。

「番薯棗」などが、その原形と考えられている。

もともとは家庭のおやつであり、
高齢者向けの柔らかい食事でもあった。

それが夜市文化の中で、
B級グルメとして変形していく。

より大きく、
より軽く、
よりQに。

その競争の結果、
現在の「空洞タイプ」が標準になった。

今では、紫芋を使った2色ミックスも定番化している。


なぜ他国に似たものが見当たらないのか

日本のゴマ団子や、
西洋のドーナツは、
中身が詰まっている。

生地そのものを食べる構造だ。

一方、台湾の地瓜球は、
「食感(Q)」と「空気」を食べる装置に近い。

腹を満たすためではなく、
口の中を遊ばせるための構造。

カロリーや満腹感よりも、
噛み心地が優先されているように見える。

この点に、
台湾の澱粉文化の癖が表れている。


甘い空気を買うという行為

紙袋いっぱいの地瓜球を買う。

見た目のボリュームはあるが、
手に取ると軽い。

食べ終わっても、
腹は満たされない。

口の中に残るのは、
サツマイモの香りと、
Qの記憶だけだ。

それでも、
100円もしない価格で、
短い娯楽は成立する。

鍋の前で膨らみ続ける黄金の球体は、
台湾の夜市の活気と、
よく似た動きをしているようにも見える。

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