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八角が主役の台湾料理についての記録

台湾に降り立った瞬間、最初に鼻を捉える匂いがある。
空港の通気口、売店の蒸気、屋台の湯気。
それは八角の甘く強いスパイスの香りだ。
台湾人の料理文化には、この八角(スターアニス)が深く溶け込んでいる。
飛行機のドアが開いた瞬間の匂いが、日本人には醤油の香りのように感じられるのと似ている。

八角は単なる香料ではない。
肉の臭みを消し、甘みを補い、料理の輪郭を包むスパイスだ。
その存在感は、単品料理で主役になることもある。
ここでは、八角が主役として香る、台湾の定番料理を並べてみる。

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滷肉飯(ルーロウハン)

滷肉飯は細かく刻んだ豚肉を、八角や黒糖などの香りと一緒に長時間煮込む丼だ。
八角は大きく前面に出るわけではないが、甘辛いタレの奥行きを支える背景の香りとして不可欠だ。
八角が入ることで、甘みとコクが増し、豚肉の臭みがやわらぐ。

地域や店によって八角の量やブレンドは異なるが、
この香りがあるかないかで味の印象は大きく変わる。
滷肉飯は八角の存在感を最もわかりやすく体感できる料理の一つだ。


茶葉蛋(チャーイエダン)

茶葉蛋は、黒い茶葉と醤油の煮汁に卵を浸し、じっくりと味を染み込ませた料理だ。
八角は五香粉の構成要素として入れられ、
塩味の染みた卵の周囲にふんわりとした甘い香りを残す。

この料理は、八角の染み込み力を感じる代表例でもある。
濃い醤油の風味に八角が混ざると、
単なる煮卵ではない独特の深さを湯気の中に生む。


牛肉麺(ニュウロウミェン)

スープの奥に隠れる八角の陰影

台湾の国民食のひとつ、牛肉麺。
八角はスープのベースとして使われ、
牛骨や赤身肉の旨味を丸く包み込む。
直接的な香りではなく、陰影のある味の厚みを与える役割だ。

八角入りのスープは、
ただの塩気や脂では出せない複雑な甘みと香りを持つ。
牛肉麺の味の奥深さは、八角によって強調されている部分が大きい。


滷味(ルーウェイ)

八角の仄かなベールに包まれる煮込み

滷味は、卵や豆腐、内臓、野菜などを八角入りの煮汁で一気に味付けした料理だ。
多くの素材を同じ煮汁に浸すことで、
八角の香りが料理全体を穏やかに包み込む。

この料理では、八角は決して主役にならない。
しかし、複数の具材を一つの鍋でまとめ上げる調和のスパイスとして機能している。


八角の役割と意味

八角は台湾料理で「強い香り」として語られるが、
その実態は 味を整える支え である。
単体の主張より、他の香味や旨味をまとめ上げ、
料理全体をひとつの方向へ導く役割を担う。

その香りの強さゆえ、初めて出会う人には薬草のように感じられることもある。
しかし、台湾の街角を歩き、滷肉飯や牛肉麺の湯気に包まれるうちに、
八角はやがて 「台湾の料理の香り」として思い出の一部になる。

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