―― 「太い」か「細い」か、それが問題だ。 ――

やっとの思いで「紅焼牛肉麺」を注文した、その直後。
店員が間髪入れずに聞いてくる。
麺、どれにする?
メニューには書いていないことも多い、裏オプション。
ここで一瞬でも迷うと、店員は勝手に「いつもの」を出してくる。
台湾の牛肉麺において、
麺の太さは好みの問題ではない。
スープをどう持ち上げるか。
どこで噛ませるか。
どれくらい「Q」を感じさせるか。
麺は、味覚のハンドルだ。
麺は「素材」と「形状」でだいたい分かれる
牛肉麺の麺の話は、
太いか細いか、という選択に見える。
ただ、少し引いて眺めると、
実際はもう少し単純な分岐に見えてくる。
ひとつは素材。
小麦なのか、でんぷん(春雨)なのか。
もうひとつは形状。
丸いのか、平たいのか、削り出しなのか。
小麦の麺は、噛ませる方向へ寄りやすい。
でんぷんの麺は、吸わせる方向へ寄りやすい。
丸い麺は、スープと一体化しやすい。
平たい麺は、スープを運びやすい。
削り出しの麺は、噛みの強さが残りやすい。
結局、麺はスープの受け皿というより、
食べ方の設計図として置かれている。
王道|刀削麺(ダオシャオミェン)
不揃いの美学、最強のQ
小麦粉の塊を、包丁で削り落とす。
そのまま鍋へ。
形は揃っていない。
断面は三角形に近く、厚みもまちまちだ。
この不均一さが、刀削麺の核になる。
中央は分厚く、モチモチ。
縁は薄く、ピロピロ。
一口の中に、二つの食感がある。
濃い紅焼スープに沈めても、負けない。
噛んで、噛んで、最後に飲み込む。
「食べている感覚」が欲しいなら、まずはこれだ。
標準|家常麺/寛麺
タレを運ぶフラットなベルト
平打ちで、幅のある太麺。
日本のきしめんやフェットチーネに近い。
刀削麺ほど荒々しくないが、
表面積が広いぶん、スープや脂をよく運ぶ。
多くの店で「太麺」と言うと、
だいたいこれが出てくる。
主張しすぎず、弱すぎない。
台湾的なモチモチ感を、最も安定して楽しめる。
初訪問の店で迷ったら、
この麺にしておくと大きく外さない。
拉麺(ラーミェン)
手で引っ張る、均一な弾力
拉麺は、包丁で切る麺ではない。
生地を伸ばし、引っ張って作る麺だ。
見た目は丸く、比較的そろっている。
細麺ほど繊細ではなく、
刀削麺ほど荒々しくもない。
食感は、均一に跳ね返ってくる。
噛んだときに、同じ弾力が続く。
スープとの関係は中間にある。
細麺ほどスープに溶けず、
寛麺ほど表面で運びすぎない。
紅焼でも清燉でも成立する。
どちらにも寄れるが、
どちらにも染まり切らない。
店によっては、
「拉麺」と言いつつ実態は丸麺だったりする。
それでも、
この言葉が置かれている時点で、
店が想定している食感の方向は見えてくる。
繊細|細麺(シーミェン)
スープとの一体化
丸い断面の細麺。
日本のラーメンやうどんに近い見た目だ。
麺と麺の隙間にスープが入り込み、
一緒に持ち上がってくる。
噛むというより、啜る。
あっさりした清燉スープと合わせると、
出汁の輪郭がはっきりする。
牛骨や香味野菜の香りを、
邪魔せずに運ぶための麺。
重さはいらない、という日に向いている。
変化球|冬粉(ドンフェン)
スープを飲むための透明な糸
正体は春雨。
台湾の牛肉麺屋では、
ほぼ必ず選択肢に入っている。
小麦ではなく、でんぷん。
とにかく軽い。
そして、吸う。
スープを吸い、膨らみ、
そのまま一緒に口へ入ってくる。
「今日はあまり食べたくない」
「スープだけを味わいたい」
そんな日に、意外と理にかなう選択だ。
ペアリングの黄金比
だいたい、こんな関係がある。
紅焼 × 刀削麺・家常麺
噛む。満腹になる。
清燉 × 細麺
啜る。落ち着く。
ただし、逆張りも楽しい。
こってりスープに冬粉を入れて、
スープだけをジャンクに啜る。
ルールはあるが、絶対ではない。
最後は「指差し」で意志を伝える
麺が変われば、
同じ牛肉麺でも別の料理になる。
言葉が通じなくても問題ない。
厨房の麺を指差す。
紙に「寛」か「細」と書く。
それだけでいい。
自分の「Q度」を見つけること。
それもまた、台湾牛肉麺を食べる理由になる。
次に聞かれたら、
迷わず答えられるはずだ。






