―― ハンバーガーと麺線が同居する「南の魔境」 ――
濁水渓を越えない「南の覇者」
台湾には、なぜか越えられない川がいくつかある。
丹丹漢堡にとっての結界は、濁水渓だ。
マクドナルドも、KFCも、モスも、台湾全土にある。
それなのに丹丹漢堡は、台南・高雄・屏東から一歩も北へ行かない。
黄色い看板。
どこか懐かしい、ペリカンのキャラクター。
北部の人間にとって、丹丹は「日常」ではない。
南部に行ったときだけ遭遇できる、半ば観光資源のような存在だ。
「なぜ北に出店しないのか?」
この問いは、台湾ネット界で何度も蒸し返されてきた。
だが丹丹は、説明しない。
濁水渓の南で、今日も普通に営業している。
衝撃のセットメニュー「中西合璧」
初めて丹丹のメニューを見ると、思考が一瞬止まる。
ハンバーガー。
フライドチキン。
ここまではいい。
その横に、麺線羹。
さらに、広東粥。
ポテトでも、コールスローでもない。
ハンバーガーの「相棒」として、ドロドロの中華スープが並んでいる。
多くの客は、迷わずセットを頼む。
右手にチキンバーガー。
左手にレンゲ。
一口かじって、
一すすりすする。
この強引な同居。
洋風と中華の折衷ではなく、ほぼ衝突に近い「中西合璧」。
理屈はない。
ただ、ここではそれが成立している。
圧倒的な「甘さ」と「クリスピー」
丹丹の味付けは、明確に南部だ。
麺線のスープは甘い。
バーガーのソースも甘い。
マヨネーズですら、どこか甘い。
北部育ちの舌には、少し戸惑う。
だが南部の人間にとっては、これは「普通」だ。
そして、見落とされがちだが、
丹丹はチキンが異様に強い。
衣は薄く、しかし硬い。
齧ると、乾いた音がする。
中はしっかりとジューシー。
某世界的チェーンより旨い、
と本気で言う人がいるのも、あながち誇張ではない。
コスパという名の正義
値段を見ると、もう一度メニューを見直したくなる。
バーガー。
麺線(または粥)。
ドリンク。
それで100元前後。
いつの間にか、これが当たり前になっている。
昼時の店内は、いつも騒がしい。
学生。
作業着の人。
家族連れ。
回転は早い。
効率もいい。
だが、無機質ではない。
この雑多な熱気も含めて、丹丹なのだと思う。
郷に入れば丹丹に従え
台北の洗練されたカフェには、丹丹はない。
代わりに、ここには混沌がある。
ハンバーガーを食べながら、麺線をすする。
甘さと油と炭水化物を、同時に受け止める。
台湾南部に来たなら、
一度はこの「バグったセット」を体験しておいた方がいい。
理解しようとしなくていい。
ただ、郷に入って、丹丹に従えばいい。
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