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台湾の食堂が14:00 – 17:00に閉まる理由についての記録

午後2時を過ぎると、街の音量が一段階下がる。
昼時には満席だったはずの食堂のシャッターが、半分だけ降りられる。看板の灯りが消え、ガラス越しに見える店内は、急に静かだ。

中を覗くと、客席で人が眠っている。
テーブルに突っ伏している者、椅子を二つ並べて横になっている者。毛布もなく、音楽もなく、深く、迷いなく眠っている。

観光客の目には「中休み」という不親切な制度に映るかもしれない。
だがこの光景は、怠慢ではない。台湾の街が日々を回し続けるための、きわめて実務的なリセットの時間だ。


「分段班」という二部制の労働設計

台湾の多くの食堂は、「分段班」と呼ばれる二部制の勤務体系で動いている。

午前10時から午後2時までが、昼のピーク。
午後2時から5時までは、完全な休止。
そして午後5時から、夜の営業が再び始まる。

この時間帯は、客がほとんど来ない。
ならば無理に店を開けておく理由はない。照明、空調、人件費。すべてを一度止め、繁忙時間にだけ集中させる。その方が、店も人も長く持つ。

個人経営の小さな店から、地方チェーンまで、このメリハリは共通している。
台湾の食堂は「開け続ける」より、「正しく閉じる」ことを選んだ。


幼少期から刷り込まれた「午睡」の習慣

台湾では、昼に眠ることが特別な行為ではない。
小学校では、昼食後に全員が机に突っ伏して眠る時間がある。教室の照明が落とされ、話すことも許されない。

このリズムは、大人になっても体に残る。
昼食後に30分から1時間、意識を切る。そのあと、もう一度働く。

午後の客席で堂々と眠る店員を見て、誰も咎めない。
それは「サボり」ではなく、社会的に認められた回復行為だからだ。短い睡眠が、その後の集中力を上げることを、彼らは経験的に知っている。


亜熱帯の熱をやり過ごす知恵

台湾の午後2時は、暑さのピークだ。
湿度が高く、日差しが強い。エアコンが普及する以前、この時間に動くことは、身体への負担が大きかった。

最も暑い時間帯に活動を止め、日が傾いてから再び動き出す。
この空白は、単なる習慣ではない。亜熱帯で生きるための、身体的な適応の名残でもある。

昼寝は贅沢ではなく、合理だった。


夜に備えるための「溜め」

台湾の食堂は、夜が長い。
夜市、遅い夕食、深夜の持ち帰り。昼よりも、夜の方がエネルギーを使う店も多い。

午後の3時間は、そのための溜めだ。
街が完全に止まるわけではない。ただ、一度しゃがみ込み、呼吸を整えている。

昼と夜の間にあるこの沈黙が、不夜城の持続性を支えている。


静かなる都市のルール

午後2時から5時。
閉ざされた扉や、眠る人々の姿は、台湾の街が壊れている証拠ではない。むしろ、きちんと生きている証拠だ。

この時間を「不便」と捉えるか、「深呼吸」と捉えるかで、街の見え方は変わる。
旅人もまた、そのリズムに身を預ければいい。

豆乳を一杯飲み、木陰で立ち止まり、何もしない。
それが、この街に対して一番礼儀正しい過ごし方なのかもしれない。


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