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三商巧福についての記録|台湾のチェーン店

台湾の街を歩いていると、どこかで必ず目に入る色がある。
鮮やかなオレンジ色。
そして、どこか数字のようにも見えるロゴ。

三商巧福。

台北でも、台中でも、高雄でも。
駅前、商業施設、幹線道路沿い。
意識して探さなくても、視界の端に自然と入ってくる。

名店の牛肉麺が「わざわざ食べに行くご馳走」だとしたら、
三商巧福はもっと即物的だ。

喉が渇いたときの水。
空腹を感じたときの給水所。

日本で言えば、吉野家に近い立ち位置だろう。
早くて、安くて、どこでも同じ味がする。

三商巧福は、台湾の食文化の中で
牛肉麺を「ファストフード」として成立させた、数少ない存在だ。

「酸菜」は薬味ではない

この店に入ると、最初に目に入るものがある。

テーブルの上、あるいは共有カウンターの端に置かれた
銀色の壺。

中身は「酸菜(スァンツァイ)」。
高菜の漬物に近い存在だ。

ここで重要なのは、
これは薬味ではない、ということだ。

蓋を開け、トングで掴み、丼に入れる。
量に制限はない。

初心者は、恐る恐る少量を添える。
だが、常連客は違う。

牛肉が見えなくなるまで、
麺が隠れるまで、
山のように盛る。

スープは一変する。
酸味と塩気が前に出て、
単調だった輪郭が立ち上がる。

コリコリとした食感が加わり、
もはや別の料理になる。

三商巧福では、
「酸菜を食べに来て、ついでに麺を頼んでいる」
と言っても、大きくは外れていない。

安心と信頼の「75点」

三商巧福の牛肉麺は、驚かない。

スープは、醤油ベースの紅焼。
八角などの漢方香は控えめで、尖りがない。

麺は白く、太い。
うどんに近い食感で、強いコシはないが、
スープとの絡みは悪くない。

牛肉は、よく煮込まれた塊。
特別に柔らかいわけでも、個性が強いわけでもない。

だが、
台北でも高雄でも、
同じ柔らかさ、同じ味で出てくる。

名店のような「100点の感動」はない。
しかし、
「30点のハズレ」を引くことも、まずない。

常に75点。
それを、どの街でも、同じように出し続ける。

旅人にとって、これほど頼れる存在はない。

実は侮れない「脇役たち」

三商巧福は牛肉麺の店だが、
それだけで完結していない。

実は、排骨飯がそこそこ旨い。
牛肉麺屋なのに、という違和感込みで、評価が高い。

また、冷蔵ケースに並ぶ小菜も重要だ。

皮蛋豆腐。
茹で野菜。
昆布の煮物。

勝手に取って、後で会計する。
このシステム自体が、台湾食堂の基本形だ。

三商巧福は、
味だけでなく、
台湾の「食べ方」そのものを、
初心者向けに整えて提示している。

迷子のためのシェルター

有名な牛肉麺の名店は、
行列が長く、
注文が難しく、
時に衛生面で一歩引いてしまうこともある。

そんな夜がある。

もう冒険したくない。
失敗したくない。
ただ、温かいものを食べたい。

そんなとき、
オレンジ色の看板は、
実家のような顔で迎えてくれる。

明るくて、
涼しくて、
メニューには写真があり、
指差しだけで注文が終わる。

三商巧福は、
牛肉麺の最高到達点ではない。

だが、
台湾で迷子になったときの
最も信頼できるシェルターであることは、間違いない。


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