―― いくつかの前提を置きながら ――
駅前の朝食屋で、豆乳を飲んでいる。
まだ完全に目が覚めきらない時間帯だ。
目の前を、YouBikeに乗った人たちが次々に通り過ぎていく。
スーツの人もいる。
バックパックの学生もいる。
信号が変わるたびに、数台ずつ流れていく。
その数が、少し多すぎるように見えた。
台湾には、いったい何台のYouBikeがあるのだろうか。
正確な数字は知らない。
だが、いくつかの事実と仮定を積み上げれば、だいたいの規模感は見えてくる。
そう思って、頭の中で計算を始めた。
利用回数から逆算する
まず、最もわかりやすい数字から考える。
以前、
「台北市のYouBikeは1日20万回利用されている」
というニュースを見た記憶がある。
1日20万回。
これは「台数」ではなく「利用回数」だ。
では、1台の自転車は1日に何回使われているのか。
YouBikeの初期には
「1台あたり1日12回転」
という数字が語られていたことがある。
ただし、今は状況が違う。
すでに十分に普及し、ピークとオフピークの差もある。
ここでは少し控えめに、
1台あたり1日10回利用
と仮定する。
20万回 ÷ 10回
= 2万台
これは、台北市に存在するYouBikeの規模を示している。
次に、この数字を台湾全体に広げてみる。
台北市の昼間人口は、およそ350万人。
台湾全体の人口は約2300万人。
単純に人口比で割り戻すと、
2万台 ×(2300万 ÷ 350万)
≒ 13万台
かなり大きな数字だが、都市インフラとして考えれば不自然ではない。

ステーション密度から積み上げる
次に、配置の論理から考えてみる。
YouBikeのステーションは、
市街地ではおよそ300m間隔
で設置されていると言われる。
300m四方のグリッドで考えると、
1ステーションあたりのカバー面積は約0.09平方km。
台北市の面積は約275平方km。
このうち、山間部などを除き、
半分が実質的な市街地だと仮定する。
275 × 0.5 = 約138平方km。
138 ÷ 0.09 ≒ 1500ステーション
1ステーションに置かれている自転車は、
場所によって違うが、
平均20台と仮定する。
1500 × 20 = 3万台
これは、先ほどの①で出した
「台北市で約2万台」という数字と、
極端にはズレていない。
むしろ、
「繁華街では30台以上、住宅地では10台前後」
といったばらつきを考えれば、妥当なレンジに見える。
この3万台を、再び人口比で台湾全体に広げる。
3万台 ×(2300万 ÷ 350万)
≒ 20万台
さきほどより、やや多めの推定だ。
利用者層から考える
最後に、
「誰がYouBikeを使っているのか」
という視点から考えてみる。
台湾全体の人口は約2300万人。
YouBikeの主な利用者は、
高校生と大学生、
そして一部の社会人だろう。
ここでは仮に、
人口の5%が日常的な利用者
だと置いてみる。
2300万人 × 5%
= 115万人
全員が毎日使うわけではない。
また、1日に1回しか乗らない人もいれば、
通学・通勤で往復2回使う人もいる。
ここでは、
その半分が1日2回利用
すると仮定する。
115万人 × 0.5 × 2回
= 115万回/日
この利用を、
1台あたり10回転で支えるとすると、
115万 ÷ 10
= 11.5万台
なんとなく数字が収束してくる。

数字が収束する
ここまでの3つの推定は、
別々の入口から考えたものだ。
・利用回数から逆算すると 約13万台
・配置密度から積み上げると 15〜20万台
・利用者層から考えると 約12万台
極端なズレはない。
誤差を含めて考えるなら、
台湾全体のYouBikeは、おそらく12〜18万台程度
に収まっている可能性が高い。
少なくとも、
「数万台」では足りず、
「数十万台」だと多すぎる。
豆乳が冷めるころ
豆乳を飲み終えるころ、
朝のラッシュはひと段落していた。
さっきまで次々に流れていたYouBikeは、
今は静かにステーションに戻っている。
誰も、その台数を意識していない。
多すぎるとも、少なすぎるとも思われない。
だが、その「ちょうどよさ」を保つために、
十数万台の自転車が、
毎日、黙々と街を循環している。
それだけの数があって、
それでも過剰に見えない。
それが、この都市の設計なのだろう。

追記
後で調べてみると、YouBikeの総台数はおよそ93,000台らしい。
最初に頭の中で出した12〜18万台という数字より、やや少ない。
このズレの原因は単純だと思う。
さっきの推定は、全国どこでも台北と同じような利用率で回っている、という前提に立っていた。
しかし実体は違う。
地方都市では、
・そもそも使う人の母数が少ない
・ステーションの設置密度も疎
・回転率も台北ほど高くない
という条件が重なっているのだろう。
台北中心部の感覚を、そのまま台湾全体に引き伸ばしてしまった。
朝のラッシュで次々と自転車が消えていく光景は、あくまで「最も回っている場所」の一断面にすぎなかった。
全国平均で見れば、
多くのYouBikeは、もう少し静かな速度で、
もう少し間隔の空いた場所に置かれている。
それでも9万台以上が維持されている、という事実のほうが、むしろ印象に残る。
この仕組みは、
一部の過密な成功ではなく、
使われない時間帯や場所も含めて成立している。
駅前の朝食屋で見ていたのは、
その全体像の中で、いちばん動きが速い部分だった、ということだ。



