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高雄でYouBikeに乗るということについての記録

高雄を歩いていると、距離感が少しずれる。
道は広く、区画は大きい。
MRTの駅と市場、あるいは目当ての食堂の間が、微妙に離れている。

徒歩15分。
数字だけ見れば大した距離ではない。
だが、南から湿気を含んだ風が吹く朝、その15分は体力を削る。

タクシーに乗るほどではない。
しかし歩きたくもない。
その中間に置かれているのが、駅前に並ぶ黄色い自転車、YouBikeである。

ただ、多くの人がここで立ち止まる。
理由は単純だ。
目の前を流れるスクーターの量が多すぎる。


音がつくる誤解

怖さの正体は、音にある。
背後から頻繁に聞こえる短いクラクション。

日本の感覚だと、それは警告や怒号に近い。
「邪魔だ」「どけ」という意味に聞こえる。

だが、高雄では違う。
この音に感情はほとんど含まれていない。


クラクションは位置情報である

高雄のクラクションは、会話ではなく通知に近い。
「ここにいる」
「今から横を通る」

暗闇で飛ぶコウモリが音を出すのと似ている。
周囲に自分の存在を知らせているだけだ。

だから、鳴らされたときの正解は動かないことにある。
急ブレーキをかけない。
端に寄ろうとしてふらつかない。

今の速度とラインを保つ。
相手はそれを前提に計算し、自然に避けていく。


手信号という共通言語

高雄の道路で、最も通じやすい意思表示がある。
手信号だ。

ウィンカーよりも、腕の動きのほうが伝わる。
左に行きたいときは、左手を横に出す。
ただそれだけでいい。

彼らはルールを無視することはあっても、人の動きには敏感だ。
手信号を出した瞬間、バイクの流れが割れることがある。

言葉は交わさない。
だが、理解は成立している。
この感覚を一度掴むと、恐怖は急に薄れる。


機動力がもたらす変化

自転車に慣れると、高雄の地図が縮む。

駅から離れた自由黄昏市場も、数分で届く。
タクシーでは入りにくい路地にも、そのまま滑り込める。

YouBikeの前カゴは実用的だ。
市場で買った果物や飲み物を放り込み、そのまま次へ向かえる。

移動が負担でなくなると、行動範囲が広がる。
予定にない寄り道も、自然に増える。


流れの中に入る

最初は戦場のように見えた道路が、
しばらく走ると別のものに見えてくる。

無秩序ではない。
一つの流れがあり、その中で皆が微調整している。

逆らわず、止まらず、意思だけを示す。
それだけで、この流れは意外と優しい。

ガラス越しの移動では、匂いは伝わらない。
ペダルを漕ぐと、熱気と排気と朝の湿度が直接届く。

YouBikeに乗るという行為は、
高雄の生活速度に、少しだけ近づくための方法である。


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