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空港MRTについて記録|台湾

かつて台北から桃園空港へ向かう道は、不確実だった。
國光客運のバスに乗り、高速道路の渋滞に賭ける。
雨の日は特に、到着時刻は読めなかった。

2017年、桃園空港MRTの開通によって状況は一変する。
空港までの時間は、「祈るもの」から「計算できるもの」へ変わった。
快速で約35〜38分。
この数字が示すのは、単なる利便性ではない。

台北駅(A1)はこの瞬間から、
事実上の空港ターミナルになった。


インタウンチェックインという魔法

多くの人は、インタウンチェックインを
「荷物を先に預けられる便利なサービス」だと思っている。

だが本質は別にある。

それは、
空港のチェックインカウンターが、街の中心に移動してきた
という構造の変化だ。

朝、ホテルをチェックアウトし、
台北駅でスーツケースを預ける。

その瞬間、身体の状態が切り替わる。
旅行者(荷物あり)から、
都市生活者(手ぶら)へ。

残った数時間を、
ロッカー探しではなく、
最後の牛肉麺や、街歩きに使える。

この仕組みが使えるのは、
チャイナエアライン、エバー航空、スターラックス航空など
台湾のレガシーキャリアが中心だ。

LCCや一部外資系は対応していない。
それでも、対応便を選ぶ理由としては十分すぎる。


A1台北駅という建築

出国は、すでに始まっている

A1台北駅に足を踏み入れると、
空気が少し変わる。

高い天井。
竹林を思わせるアトリウム。
光を抑えた静かな空間。

隣接する台鉄・高鉄の台北駅が
人の流れと音に満ちた迷宮だとすれば、
ここは意図的に静かだ。

ここに立った時点で、
心理的にはもう半分、出国している。


車窓に現れる地形の断面

台北盆地から台地へ

列車は地下から滑り出し、
三重の古いアパート群を抜け、
やがて高架へ上がる。

林口の台地。
茶畑と新興住宅地。
空が広がる。

このMRTは、
単なる交通手段ではない。
台北の地形をなぞる装置でもある。

盆地から台地へ。
都市から空港へ。
その移行が、窓の外に連続して現れる。


紫(Express)と青(Commuter)の罠

空港MRTで最も重要な分岐

A1台北駅で、
旅行者が最も注意すべき点がある。

それは、
直達車(Express / 紫)と
普通車(Commuter / 青)が、完全に別物である

という事実だ。

直達車(Express / 紫)

主要駅のみ停車。
空港まで約35〜38分。

旅行者の正解は、ほぼ常にこちらだ。
車内にはスーツケース置き場があり、
空港利用を前提とした設計になっている。

普通車(Commuter / 青)

各駅停車。
三重、新荘、林口など、
生活圏を結ぶための路線。

空港まで50分以上かかる。
悪い日には1時間近い。

問題は、時間だけではない。

途中の待避線で、
後から来た直達車に追い抜かれる瞬間がある。
紫色の車両が、
窓の外を高速で走り去っていく。

あの時の敗北感は、
旅の締めくくりにふさわしくない。

鉄則

A1台北駅のサイネージには、
常に
直達車(Express)/普通車(Commuter)
発車時刻とホーム番号が表示されている。

エスカレーターを降りる前に、
必ず紫色の表示(Platform 1 or 2)を確認すること。

「来た電車にとりあえず乗る」
という日本の地下鉄感覚は、
ここでは捨てた方がいい。


台北を世界に接続

距離が縮むということ

空港MRTは、
単に空港を近づけたわけではない。

台北という都市を、
世界のネットワークに
現実的な距離感で接続した

スーツケースを手放し、
紫の車両に乗り、
台地を越える。

それは移動というより、
都市から世界へ
滑らかにフェードアウトする体験だ。

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