―― 台北メトロとは別の選択 ――
新北にあるLRTは、どれも路線が短い。
淡海、安坑、三鶯。
いずれも台北駅に直結せず、単体で完結する交通ではない。
観光路線でもなければ、
都市の顔になる幹線でもない。
それでも新北では、
LRTが複数、本数多く計画され、敷かれている。
まず、この前提が少し不思議だ。
新北は、台北とは別の都市
新北市は、台北市の拡張版ではない。
行政区としては一つでも、
中身は無数の住宅地、旧市街、工業地帯、丘陵地の集合体だ。
人口は多いが、
密度は一様ではない。
一本の太い幹線で
まとめ上げるには、形が複雑すぎる。
台北メトロとは、そもそも別の事業
重要なのは、
新北のLRTを運営するのは新北捷運公司と言い、
台北メトロ(台北捷運公司)とは別の事業体だという点だ。
計画主体も、
運営の思想も、
技術の選び方も同じではない。
台北メトロが
高密度・大量輸送・高頻度運行を前提とした
「都市の動脈」だとすれば、
新北のLRTは、
その外側に広がる生活圏を調整する
補助的な装置に近い。
なぜMRTではなくLRTなのか
新北の多くのエリアでは、
地下鉄を敷くほど需要は太くない。
しかしバスだけでは足りない。
地形は丘陵や河川が多い。
この条件が重なっている。
地下を掘ればコストが重く、
高架にすれば街を分断する。
LRTは、
その中間として選ばれている。
妥協というより、
過剰を避けるための選択に見える。
国産車両という、もう一つの違い
もう一つ、新北LRTの特徴がある。
車両が国産だという点だ。
海外メーカーの完成品ではなく、
台湾国内で製造・組み立てされた車両が使われている。
速度やデザインで
強く主張するものではない。
だが、
保守や更新、将来の拡張を前提にした
現実的な選択でもある。
ここでも、
最先端より
長く使うことが優先されている。
路線は、どこを埋めているか
各路線は、
中心を目指していない。
淡海は、新興住宅地を既存鉄道網につなぐ。
安坑は、丘陵の住宅地を地上へ降ろす。
三鶯は、工業・伝統産業エリアを縫う。
共通しているのは、
都市の端と端をつなぐという役割だ。
目的地ではなく、
接続点として存在している。
完結しないことを前提にした路線
新北のLRTは、
それだけで完結する交通ではない。
MRT、台鉄、バスとの接続を前提に、
移動の一部として組み込まれている。
主役にならない。
目立たない。
だが、それでいい交通として設計されている。
台北と新北は、
地続きではあっても、同じ都市ではない。
高密度で中心に集約される台北に対し、
新北は、拡張し続ける生活圏の集合体だ。
だから、
一本の太い幹線ではなく、
短く、分断され、完結しない路線が選ばれる。
新北のLRTは、
大量輸送を目指していない。
都市の隙間を埋め、
生活圏同士を静かにつないでいる。
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