台北・松山区 民生社区 小上海についての記録

── 民生社区の生活に溶ける、小籠包の店 ──

民生社区は、
台北の中では少し異質な空間にある街だ。

道幅が広く、街路樹が続き、
古いアパートがゆっくりとリノベーションされている。
観光客の足音よりも、
近所の人の生活音のほうが先に聞こえてくるような場所だ。

その住宅街の一角に、
小上海 がある。

特別な目立ち方をしているわけではない。
通りに溶け込むようにして、
ただ日常的に営業しているだけの店だ。

観光地の小籠包屋のような、
列を作る風景はここにはあまりない。
代わりに、
地元の住人が普通に出入りしている。

買い物帰りの人、
仕事の合間に立ち寄る人、
昼食を取りに来たであろう人。
そういう人たちの動線の中に、
最初から組み込まれている店に見える。

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小上海という名前

台湾には、「小上海」という名前の店がいくつもある。
この店も、そのひとつだ。

チェーンではない。
暖簾分けでもない。
ただ、「上海風の点心を出す店」という意味で、
この名前が選ばれているようにも見える。

目新しさはない。
記号のような名前だ。

けれど、
この店の小籠包は、奇をてらわない方向で、
きちんと整っている。

皮は薄すぎず、厚すぎず。
中の餡も、脂に寄りすぎない。
食べた瞬間に驚かされることはないが、
「普通に、ちゃんと美味しい」という点では、
かなり信頼できる一軒だと思える。

派手さはなくても、
食べ進めるうちに、
バランスの良さがじわじわと伝わってくる。

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小籠包と湖州粽

この店では、
小籠包と並んで 湖州粽（フージョウゾン） が置かれている。

台湾南部のちまきとも、
北部ちまきとも少し違う。
細長い形で、米はねっとりとしていて、
中の具も控えめだ。

強い味ではない。
ただ、食べていると、
生活の中に組み込まれている料理だということがわかる。

小籠包が主役の店ではあるが、
この粽を一緒に頼むと、
この店の立ち位置がよりはっきりする。

点心だけの店ではなく、
食堂の延長線上にある場所だということ。

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民生社区の中の一軒として

小上海は、
「わざわざ来る店」というより、
「近くにあったら通う店」に近い。

観光スポットではない。
映える店でもない。
けれど、
この街の生活のリズムの中には、
確かに根を張っているように見える。

もしこの近くに住んでいたら、
週に一度、
ふらっと立ち寄るような店かもしれない。

そして、
旅人としては、
たまたまその日常の端に入り込んだ、
そんな感覚が残る場所だった。

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