―― ドック型という英断 ――
シェア自転車は、
世界的には成功しにくい仕組みだ。
中国や欧州では、
一時的なブームのあと、
大量の自転車が街に放置された。
歩道に積み上げられ、
倒れ、壊れ、
回収されないまま風景の一部になる。
そうした「自転車の墓場」が、
いくつもの都市で現実になった。
その流れを横目に見ると、
台湾の状況は少し異質に見える。
YouBikeは、
派手な成功を収めたわけではない。
ただ、
今も普通に使われ続けている。
死屍累々の中で、
なぜ台湾だけが残ったのか。
なぜシェア自転車は失敗しやすいのか
失敗した事例を並べていくと、
理由はそれほど複雑ではない。
多くのシェア自転車は、
自由すぎた。
どこでも借りられ、
どこでも返せる。
ユーザーの利便性を最優先した結果、
管理は街に丸投げされた。
放置されても責任の所在は曖昧。
邪魔になっても、
誰が片づけるのか分からない。
便利さは、
そのまま街への負荷になった。
自由は、
都市にとって必ずしも善ではなかった。
台湾が選んだのは「不自由」だった
YouBikeは、
この流れに乗らなかった。
どこでも返せる、
という設計を選ばなかった。
必ずステーションに返す。
返さなければ利用は終わらない。
一見すると、
ユーザーに不親切な選択に見える。
だが、
この「不自由」こそが、
YouBikeを公共物として成立させた。
自転車の行き先が決まっている。
街に勝手に溜まらない。
管理の責任が消えない。
YouBikeは、
自由よりも秩序を優先した。
ドック型という英断
ドック型の仕組みは、
自転車を
都市の外部にしない。
放置される前提ではなく、
戻ってくる前提で設計されている。
その結果、
自転車は
「邪魔な物」になりにくい。
YouBikeは、
便利なサービスになることよりも、
嫌われない存在になることを選んだ。
公共物にとって、
これは極めて重要な判断だった。
2.0が変えたドック型の運命
ドック型には、
かつて弱点があった。
設置が大変で、
増やしにくい。
YouBike 1.0の時代、
ステーションの拡張は
大きな工事を伴っていた。
だが、2.0で状況は変わる。
通信機能を自転車側に持たせたことで、
ステーションは一気に簡素化された。
電源と固定設備さえあればいい。
設置のハードルは下がり、
数は増やせるようになった。
思想はそのままに、
柔軟性だけを手に入れた。
密度が、不自由を感じさせなくした
ドック型が成立するには、
もう一つ条件がある。
密度だ。
返却が必要なら、
返却場所は近くにあるべきだ。
YouBikeは、
歩いて数分以内に
次のステーションがある前提で配置されている。
そのため、
「返すのが面倒」という感覚は生まれにくい。
不自由は、
配置によって相殺された。
UXは、
アプリの中ではなく、
街の地図そのものに組み込まれていた。
台湾がやったのは、派手な革新ではない
YouBikeが残った理由は、
奇抜な発明にあるわけではない。
便利さを一段抑え、
壊れにくさを優先した。
自由を制限し、
秩序を守った。
台湾がやったのは、
流行に逆らうことだった。
その結果、
YouBikeは
死屍累々の中で、
生き残った。
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