―― GIANTの品質についての記録 ――
世界のシェア自転車は、
多くの場合、長くは続かなかった。
中国や欧州では、
一時的なブームのあと、
自転車の墓場が残った。
倒れ、壊れ、
誰も管理しなくなった車体が、
街の隅に積み上がっていく。
その流れを横目に見ると、
台湾の状況は少し異なる。
YouBikeは、
派手な成功を収めたわけではない。
ただ、
今も普通に使われ続けている。
死屍累々の中で、
台湾だけが、
うまくいっているように見える。
設計思想は、一つの答えだった
YouBikeは
「自由」を最大化する道を選ばなかった。
どこでも乗り捨てられる仕組みではなく、
必ず返すドック型。
不自由を受け入れることで、
街に秩序を残す設計だった。
この判断が、
YouBikeを
公共物として成立させたことは確かだ。
だが、
それだけで
街に残り続けられるほど、
現実は単純ではない。
制度の前に、モノが壊れていた
世界のシェア自転車が
消えていった理由の多くは、
もっと物理的だった。
壊れる。
直らない。
直すより捨てたほうが安い。
どれだけ正しいルールを作っても、
自転車そのものが
数ヶ月で使い物にならなくなれば、
制度は機能する前に崩れる。
死屍累々の正体は、
理念の失敗ではなく、
鉄屑の山だった。
YouBikeが生き残った理由を考えるなら、
次に見るべきは
何が走っていたのか
という点になる。
YouBikeは「自転車屋」が作っていた
YouBikeを支えていたのは、
IT企業ではなかった。
世界最大の自転車メーカー、
GIANTだった。
GIANTは、
シェア自転車を
アプリやサービスとしてではなく、
自転車として扱った。
毎日、不特定多数が乗る。
雨に晒される。
乱暴に扱われる。
その前提を、
最初から受け入れていた。
オーバースペックという選択
YouBikeの車体は、
シェア用途としては
明らかにオーバースペックだ。
フレームは重く、剛性が高い。
足回りは簡素だが、壊れにくい。
サドルやライトも、
最低限ではなく「十分」な品質がある。
乗り心地は、
決して軽快ではない。
だが、
毎日何十人が乗っても、
壊れない。
この前提が、
すべてを変えた。
耐久性は、長期的には安さをもたらす
安い自転車は、
初期費用を下げる。
だが、
すぐに壊れる。
修理する。
回収する。
交換する。
その繰り返しは、
長期的には
最も高くつく。
YouBikeは、
最初から長く使うことを選んだ。
数年単位で走り続ける車体は、
結果として
運用コストを下げる。
この発想は、
短期回収を前提とした
テック企業のモデルとは
真逆にある。
ボロボロにできない構造
GIANTが関わることで、
もう一つ重要な構造が生まれた。
街を走るYouBikeは、
GIANTの名前を背負っている。
もし車体が
錆び、壊れ、放置されていれば、
それは
動くネガティブ広告になる。
公共物であると同時に、
ブランドの顔でもある。
だから、
手を抜けない。
品質は、
善意ではなく、
構造によって担保されていた。
設計思想は、物理に宿る
ドック型という設計思想は、
制度の話だった。
だが、
制度は物理を裏切れない。
どれだけ正しいルールでも、
自転車が壊れれば終わる。
YouBikeが生き残った理由の一つは、
思想が
鉄とゴムの形に
落とし込まれていたことだ。
壊れにくいから、
直せる。
直せるから、
戻せる。
そうして、
街に残った。
■ 関連する記録
■ 全体像の記録
コメント