―― ラストワンマイルへのこだわり ――
設計がよかった。
自転車が強かった。
現場が回っていた。
ここまで揃っても、
なお多くのシェアサイクルは失敗してきた。
理由は単純だ。
街に置く許可が、最後まで得られなかった。
歩道に置く。
駅前に置く。
一番便利な場所に置く。
それは、民間企業だけでは決められない。
YouBikeが本当に特異なのは、
最後の一手を、行政が引き受けた点にある。
赤字でもやる、という判断
YouBikeは、
単体で見れば、儲かるビジネスではない。
- 初期投資は重い
- メンテナンスは手間がかかる
- 利用料金は極端に安い
とくに象徴的なのが、
最初の30分無料(あるいは格安)という設計だ。
これは明らかに、
利益最大化とは逆の方向を向いている。
だが、行政の視点では話が変わる。
YouBikeは、
自転車レンタルではなく、
MRTを成立させるためのシステムだった。
駅まで歩くには遠い。
バスを待つほどでもない。
その「最後の数百メートル」を埋めることで、
人は初めて公共交通を選ぶ。
YouBikeは、
MRTの集客装置として設計されている。
赤字でもやる理由は、
そこにあった。
「一番いい場所」を差し出すという覚悟
多くの都市では、
シェアサイクルのステーションは
「余った場所」に追いやられる。
邪魔にならないところ。
誰も文句を言わないところ。
つまり、
一番使いづらい場所だ。
台北のYouBikeは違う。
- MRTの出口すぐ
- 大学の正門前
- 市場の入口
- 官公庁の前
街で最も価値の高い場所に、
迷いなく置かれている。
これは、
単なる協力ではない。
行政が自らの権限で、場所を切り出した結果だ。
「便利なところに置かなければ意味がない」
その前提が、
最初から共有されていた。
誰でも使える、という前提
YouBikeの利用者は、
特別な人たちではない。
- 学生
- 高齢者
- 出稼ぎ労働者
- 観光客
免許は要らない。
特別な知識も要らない。
EasyCardを持っていれば、
ほぼ同じ条件で使える。
これは偶然ではない。
YouBikeは、
「使いこなせる人」を選ばない。
高機能にしすぎず、
アプリに依存しすぎず、
料金も複雑にしない。
参加のハードルを
意図的に低く保っている。
都市インフラとしてのYouBike
ここまで見てくると、
YouBikeはもはや
一つのサービスではない。
- 設計で秩序を作り
- モノで信頼を作り
- 人で日常を回し
- 行政が最後を引き受ける
この組み合わせが、
都市の中で静かに動いている。
だから、街の風景を壊さない。
だから、反対運動が起きにくい。
だから、いつの間にか「あるのが普通」になる。
YouBikeは、
台湾が作り上げた
都市インフラの一部だ。
派手な成功ではない。
だが、真似しようとしても真似できない。
その理由は、
技術でも、資本でもなく、
決断の置きどころにあった。
誰のために用意するのか。
誰が参加できる状態を作るのか。
その問いに、
最後まで付き合った結果が、
今日のYouBikeの風景なのかもしれない。
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