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正忠排骨飯についての記録|台湾のチェーン店

―― 交差点の赤いランドマークと、高雄生まれの「黒い排骨」 ――

街の角地を押さえる「赤い看板」

台湾の街、特に中南部を歩いていると、
交差点の角地(三角窗)で、やけに目立つ赤と黄色の看板に出会う。

正忠排骨飯。

ビルの壁面いっぱいに掲げられた巨大な文字は、
信号待ちの視線を逃さない。
昼どきならなおさらだ。

正忠排骨飯の出店には、はっきりした癖がある。
それは、角地しか選ばないこと。

家賃が高くても、交通量の多い交差点を押さえ、
数階分の高さの看板を立てる。
店そのものが、街のランドマークになる。

創業者の王致中氏は、もともと看板職人だったという。
「味以前に、見つけてもらわなければ始まらない」。
その思想は、この赤い看板にそのまま表れている。


高雄・正忠路からの出発

正忠排骨飯の始まりは、1991年。
場所は高雄市三民区の正忠路。

通りの名前をそのまま店名にした、小さな弁当屋だった。

当時から変わらないのは、
安くて、腹いっぱいになって、味がはっきりしていること。

労働者の多い高雄で鍛えられたその方向性は、
そのままチェーン展開にも引き継がれていく。

気取らない。
迷わせない。
毎日食べられる。

正忠排骨飯は、そういう弁当屋だ。


衣のない「黒い排骨」と、南部の甘み

正忠の排骨飯には、ひとつ分かりやすい特徴がある。

衣がない。

多くの店が、地瓜粉の衣で排骨を大きく見せる中、
正忠は肉そのもので勝負する。

タレに漬け込まれた豚肉を揚げると、
表面は黒褐色に近い、濃い色になる。

一口かじると、まず甘みが来る。
砂糖と醤油をベースにした、南部らしい味付けだ。

サクサク感はない。
代わりに、噛むほどに肉とタレの香ばしさが出てくる。

白飯が進む、分かりやすい排骨。
正忠の味は、ここに集約されている。


もう一つの主役「炸鶏腿飯」

正忠で排骨と並ぶ、もう一つの定番が炸鶏腿飯だ。

骨付きの鶏もも肉を、一本丸ごと揚げたもの。
弁当箱からはみ出すことも珍しくない。

皮はパリパリというよりしっとり。
齧ると、乾いた音がして、すぐに熱い肉汁が出てくる。

「今日は肉を食べたい日」
そういうとき、常連は迷わずこちらを選ぶ。

排骨より少し高い。
それでも頼む人が多いのは、この一本に説得力があるからだ。


迷わず進め、流れに乗る

正忠の店内は、昼時になると落ち着かない。

だが、動線は極めて単純だ。

入口で注文し、会計を済ませる。
横に進み、副菜を三つ選ぶ。
最後に、肉が載せられて完成。

甘い紅茶とスープはセルフで、飲み放題。
装飾はない。説明もない。

それでも、この仕組みは滞らない。

正忠排骨飯は、
おしゃれな弁当屋ではない。

だが、交差点の赤い看板の下で、
今日も確実に腹を満たしてくれる。

それだけで、十分なのだと思う。


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