―― 百合と臭豆腐の香りが混ざる三多商圏の裏路地 ――
三多商圏と聞けば、高雄でもっとも洗練されたエリアのひとつだ。
SOGOと新光三越が並び、ガラス張りの外壁にブランドロゴが反射する。
冷房の効いた館内では、季節外れのコートが整然と並んでいる。
その大通りから、一本だけ裏へ入る。
歩道の幅が狭くなり、バイクの音が近づく。
空気が、少し重くなる。
ここが興中夜市だ。
観光エリアのど真ん中にありながら、
観光客向けの顔はしていない。
デパートの「勝手口」へようこそ
興中夜市は、目的地というより通過点に近い。
仕事帰りの人が、家に帰る前に立ち寄る場所だ。
デパートの制服を着たままの店員。
オフィス帰りのOL。
ハイヒールを履き替え、片手に財布だけを持って歩く。
この夜市は、巨大な商業施設に併設された
社員食堂のような存在だと思う。
観光客に向けて説明する必要がない。
ここで必要なのは、早くて、安くて、確実に腹が満たされることだけだ。
花屋と屋台の奇妙な同居
この通りでまず混乱するのは、匂いだ。
臭豆腐。
揚げ油。
ニンニク。
そこに、百合の香りが割り込んでくる。
興中夜市は、高雄でも有名な花卉街でもある。
歩道には大きなバケツが並び、
バラ、百合、菊が無造作に突っ込まれている。
花屋の隣で、屋台が火を上げる。
清浄な花の香りと、暴力的な食欲の匂い。
普通なら避けられそうな組み合わせが、
ここでは何事もなかったように共存している。

水と油のアスファルト
足元を見ると、この場所の性格がよくわかる。
花屋から溢れた水。
屋台から跳ねた油。
アスファルトは、常に黒く湿っている。
綺麗とは言えないが、不快でもない。
着飾ったマダムが花束を抱え、
その横でランニングシャツのおじさんが焼きそばを啜る。
贈答用の花と、今日の夕飯。
ハレとケが、同じ地面の上に並んでいる。
南部特有の「甘さ」と「安さ」
ここに、目新しい屋台はほとんどない。
チーズが伸びる何か。
映える盛り付け。
そういうものは見当たらない。
あるのは、何十年も続いてきた炒め物と煮込みだ。
価格は、六合夜市よりも明らかに安い。
味付けは南部らしく、甘じょっぱい。
醤油と砂糖とニンニク。
疲れた体に、そのまま届く味だ。
観光客に合わせて調整する必要がない。
毎日ここで食べる人のためだけに、作られている。

美しくないから、美しい
興中夜市は、ガイドブック向きではない。
わざわざ遠くから訪れる場所でもない。
それでも、三多商圏という都会の中心に、
これほど生活の匂いが濃い場所が残っている。
観光エリアのはずなのに、
観光客向けに整えられていない。
そのちぐはぐさが、高雄という街の素顔だと思う。
美しくないからこそ、ここは美しい。
住所: 高雄市苓雅區文横二路と興中一路の交差点周辺
営業時間: 16:00 – 1:30 (無休)
アクセス: MRT三多商圏駅(6番または7番出口)から徒歩約3分
地図: https://maps.app.goo.gl/oFCufMyskBbuXF4v6
百貨店の裏通り、ユリの花の香りと屋台の湯気が混ざり合う「花と美食の夜市」。



