―― 偶然ではない「いつでも乗れる」 ――
台北でも高雄でも、歩いていると同じ光景に何度も出会う。
曲がり角の先、公園の入口、駅前の余白。そこに黄色と白の自転車が並んでいる。
不思議なのは、数ではない。
「乗れない」場面に、ほとんど遭遇しないことだ。
全部出払っている、という絶望。
満車で返せない、という焦り。
それらは稀だ。
数万台の自転車が、人口数百万の都市に散らばっている。
それを、ほぼ均衡した状態で保ち続ける。
偶然でできることではない。
YouBikeの利便性は、感覚の問題ではない。
都市の構造を前提にした、冷静な設計の積み重ねだ。
配置──駅からの距離を支配する
最初のロジックは、置き場所にある。
YouBikeは、移動の主役ではない。
主役はMRTやバスだ。
自転車が担うのは、その隙間。
駅を出てからの、少し遠い距離。
歩くには面倒で、タクシーを呼ぶほどではない距離。
この曖昧な帯域を、徹底して埋めている。
出口から数分。
次の交差点。
公園の縁。
点で置くのではない。
面で覆う。
徒歩五分圏内に、必ず次がある。
その感覚が、人を迷わせない。
「ここになくても、少し先にある」。
その確信が、利用を継続させる。

技術──置けない場所を減らす
二つ目は、仕組みの更新だ。
初期のYouBikeは、地面に電源が必要だった。
工事が要る。
費用がかかる。
場所が限られる。
それが変わった。
自転車自身が電源を持つ。
通信も内蔵する。
結果、ドックは軽くなった。
配線は消えた。
歩道の端。
植え込みの隙間。
路地の入口。
これまで候補にすらならなかった場所が、選択肢に変わる。
都市に残る余白を、逃さない。
その積み重ねが、密度を生む。
土地──場所を借りる理由を作る
三つ目は、土地だ。
目立つ場所にあるのは、偶然ではない。
学校の前。
役所の脇。
公園の正面。
こうした場所は、通常は借りにくい。
だが、YouBikeは別の価値を差し出す。
スクーターの滞留。
無秩序な駐輪。
通学路の危険。
それらを減らす、という提案だ。
自転車を置く代わりに、交通を整理する。
土地の使用料ではなく、効果を渡す。
施設側にとっては、管理負担が下がる。
景観も改善する。
結果、門は開く。
一等地が確保される。

運用──夜の裏方が均衡を作る
四つ目は、動かし続けること。
朝、住宅地から駅へ。
夕方、駅から住宅地へ。
この波は毎日起きる。
放置すれば、偏りが生じる。
それを防ぐのが、移動だ。
利用履歴を読み、足りなくなる場所を予測する。
深夜や昼の隙間に、回収と補充を行う。
トラックは目立たない。
作業は静かだ。
だが、この作業が止まれば、利便性は崩れる。
自転車がある、という状態は、
常に手を入れ続けた結果だ。
四つの層が重なる
配置。
技術。
土地。
運用。
どれか一つでも欠ければ、成立しない。
置き場所だけ良くても、在庫がなければ意味がない。
運用が優れていても、密度が足りなければ諦められる。
YouBikeの強さは、特別な要素にない。
四つを同時に成立させたことにある。

当たり前を維持するという仕事
自転車に跨る。
ペダルを踏む。
そこに驚きはない。
それが目的だ。
都市の中で、意識されない存在になる。
不便を感じさせないことに、全力を注ぐ。
次に乗るとき、思い出す必要はない。
ただ、今日も同じ場所にある。
その状態が、すでに答えだ。

