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高雄LRTという選択についての記録

高雄には、すでにMRTがある。
それでも市は、LRTを選んだ。

地下ではなく、地上。
高速ではなく、ゆっくり。

同じ街に、性格の違う鉄道を重ねる判断は、
一見すると分かりにくい。

だがこの選択は、
「どう運ぶか」よりも先に、
「何をしたかったか」から考えると、
意外なほど一貫している。


先にあったのは「大量輸送」ではなかった

高雄が直面していた課題は、
通勤ラッシュの処理ではない。

港湾エリアの再編。
水辺や文化施設を結ぶ動線。
観光と生活のあいだに生まれた、断片的な空白。

人を速く遠くへ運ぶことより、
街をもう一度つなぎ直すこと。

ここで求められていたのは、
輸送量ではなく、回遊だった。


MRTを選ばなかった理由

MRTは、
Mass Rapid Transit の略だ。

大量に、速く、安定して運ぶための装置。
そのために地下や高架に分離され、
重装備になり、
高い建設・維持コストを引き受ける。

高雄MRTは、
この前提に忠実な交通だった。

だが今回の目的に照らすと、
MRTは少し重すぎた。

地下に潜れば、
街の風景とは切り離される。
高架にすれば、
地上の表情に影を落とす。

コストの問題は確かにあった。
しかしそれは理由というより、
目的と器が噛み合っていないことを
数字で示した結果だった。

高雄は、
MRTを否定したのではない。
今回の文脈から、外しただけだ。


LRTという方法で、目的を果たした

地下を選ばなかった以上、
残るのは地上だった。

高雄には、
まだ使い切っていない地上空間がある。
道路は広く、交差点も大きい。

LRTは、
この前提に合わせて選ばれた器だ。

高雄LRTの特徴は、
架線(電線)を持たないことにある。

車両は駅に停車するたび、
パンタグラフを上げて短時間で充電を行う。
蓄電には、
急速充放電に適した
スーパーキャパシタが使われている。

走行中に電力を引きずらない。
必要な分だけ、止まって受け取る。

技術的には、
むしろ手のかかる方式だ。

それでもこの仕組みが選ばれたのは、
効率のためではない。

ここで優先されたのは、
輸送性能より、
都市の見え方だった。


器を軽くした都市

高雄はまず、
大量輸送以外の目的を設定した。

その結果として、
MRTという重い器が外れ、
LRTという軽い選択が残った。

これは後退ではない。
都市が、自分のサイズを測り直した結果だ。

高雄LRTは、
人を急がせない。
街を分断しない。

地上で、
静かに、
街を縫い直している。

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