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台中・中区 沁園春についての記録

台中駅の北側。
古い商店が並ぶ中区の一角に、
1949年創業の沁園春が静かに構えている。

一見すると、ただの老舗の上海料理店。
しかしこの店には、台湾の戦後史がそのまま埋まっている。

ここで小籠包を食べるということは、
味ではなく歴史を体験することに近い。


名前が招いた「政治的受難」

沁園春が生まれたのは 1949年。
国民党政府が台湾に撤退し、
島全体が緊張と混乱の中にあった年だ。

創業者が店名に選んだ「沁園春」。
これは本来は宋代の詞牌の名前だが、
当時もっとも有名だったのは
毛沢東の詩《沁園春・雪》だった。

国共内戦の直後。
毛沢東と同じ言葉を掲げているという理由で、
創業者は警察に連行され、
共産党のスパイではないかと尋問されたという。

店名ひとつで取り調べを受ける時代に、
上海から台中に渡り、店を構えるという選択。
沁園春は、その時代の空気をいまも残している。

さらに、店は後に
蒋経国(のちの台湾総統)
蒋緯国(蒋介石の息子)
らが通う政商のサロンとしても知られる。

店内に残る古い写真を見ると、
ここが単なる飲食店ではなかったことがわかる。


鼎泰豊とは真逆の「重厚」な小籠包

沁園春の小籠包は、
台北の繊細な点心とはまったく別の文脈にある。

大きい。重い。爆汁。

これが最初の印象だ。

鼎泰豊が「18襞の芸術品」なら、
沁園春は「豪快な上海」だ。

皮はやや厚めで、もちっとした弾力がある。
噛むと、大量のスープが流れ出す。
これはもう点心というより主食に近い存在感。

台北の繊細さ vs 台中の豪快さ
という構図で語ると腑に落ちる。

あわせて試したいのがサイドメニュー。

無錫排骨(甘いスペアリブ)
…骨から肉がするりと落ちるほど柔らかく、上海の家庭料理のような甘さ。

玫瑰包(バラの饅頭)
…蒋経国夫人が好んだとされる、美しいデザート。
店の歴史性を象徴する一品。

どれも点心師の技術というより、
戦後に台湾へ渡った上海の味を伝える料理だ。


旧市街とリノベーションの狭間で

沁園春がある台中・中区は、
かつては地元の商業中心地だったが、
時代とともに空洞化し、一度は寂れた。

しかし近年、宮原眼科などのリノベスポットが登場し、
再び「歩く街」として注目されている。

沁園春はその中で、
老舗でありながら、現代に適応した店として生き残った。

清潔な店内、日本語メニュー、丁寧な接客。
ミシュラン・ビブグルマンを連続受賞したのは、
伝統とアップデートを両立した結果だろう。


台湾の歴史を追体験できる店

蒋経国が座った席で、同じ小籠包を食べる。

沁園春の魅力は、
この追体験に尽きる。

  • 1949年の亡命
  • 毛沢東の詩による取り調べ
  • 上海から来た料理人の記憶
  • 蒋家と政商たちが通った歴史
  • 旧市街の再生とともに生き延びた老舗

その全てが、
蒸籠の湯気とともに立ち上ってくる。

ここは、
台湾現代史が、熱々のまま提供される店だ。

台中を訪れるなら、
ぜひ一度、この歴史に触れてみてほしい。


沁園春

住所: 台中市中區台灣大道一段129號

営業時間: 11:00 – 14:00 / 17:00 – 21:00(無休)

アクセス: 台湾鉄道台中駅から徒歩約10分。大きな通り沿い。

地図https://maps.app.goo.gl/RcLg32DJDTJVn4gb9

1949年創業。蒋経国も愛したビブグルマン掲載店。日本語メニューあり。週末は予約推奨。


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