台湾・鼎泰豊を愛したセレブについての記録
台北101店の厨房で、トム・クルーズは映画のスタントではなく、小籠包の18のひだに苦戦していた。店内では、革ジャン姿の経営者も地元の家族連れも、同じ蒸籠を前にレンゲを手にする。
台北101店の厨房で、トム・クルーズは映画のスタントではなく、小籠包の18のひだに苦戦していた。店内では、革ジャン姿の経営者も地元の家族連れも、同じ蒸籠を前にレンゲを手にする。
台北の有名店では蒸籠から出てくる小籠包が注目を集める一方、世界の冷凍コーナーにも、同じ料理が名もない商品として並んでいる。薄い皮とスープを抱えた点心が、工場のラインと低温の輸送網を通って棚に届くまでには、店先からは見えない別の風景がある。
かつての鼎泰豊の店内には、油のタンクと小籠包の蒸籠が同居していた。店先を使っていた点心師のほうに客が集まり、油屋の主人はその職人に教えを乞うことになる。
1993年1月、パリやロンドン、香港の名店が並ぶニューヨーク・タイムズ紙のリストに、台北の小さな油屋が一軒だけ混ざっていた。店主たちは、その名前が載ったことさえ知らずに眠っていた。
台北の信義にある鼎泰豊本店は、世界中に知られた小籠包の店でありながら、ミシュランでは星ではなくビブグルマンに分類されている。店の前には今日も列ができ、蒸籠と客が同じ速さで動いている。
KL Sentralに直結したNu Sentralの通路に、見慣れた鼎泰豊のロゴがある。けれど店名は「Din Tai Fung」ではなく「DIN by Din Tai Fung」で、入口には豚肉を使わないことが記されている。
鼎泰豊のガラス張りの厨房では、白衣の人々がほとんど音を立てず、小籠包の皮を伸ばし、具を包み、蒸籠へ送っていく。ひとりの料理人が腕を振るう店というより、細かく分かれた工程だけが静かに動いている。
2009年、ミシュランの一つ星を得たのは、台湾・鼎泰豊の台北本店ではなく、香港のショッピングモールにある一支店だった。しかも一人あたりの食事は、当時1000〜2000円ほどだった。