―― 中心を通らない路線が示したもの ――
中心に行かないという違和感
台北MRTといえば、台北駅を起点に放射状に広がる路線網を思い浮かべる。
人も、仕事も、商業も、中心に集めるための交通。
環状線は、その文法から外れている。
台北駅を通らない。
観光地の核も通らない。
どこへ行く路線なのか、直感的には分かりにくい。
それでも、この路線は計画され、少しずつ形になっていった。
吸い込み続けた都市の重さ
これまでの台北は、明確な中心を持つ都市だった。
通勤も通学も、一度中心に集まり、そこから拡散する。
MRTは、人を吸い込むための装置として機能してきた。
効率は良いが、その分、中心は重くなる。
乗り換え駅に集中する人。
上がり続ける地価。
時間帯によって歪む移動。
数値で語られなくても、
都市が一方向に疲れてきた感覚はあった。
環状線という別の文法
環状線は、中心を通らない。
住宅地と住宅地をつなぎ、台北市と新北市をまたぐ。
目的地を作る路線ではなく、
通過しなくて済むための路線だ。
都市を「点」で扱うのではなく、
「面」として回そうとする試み。
この路線は、
都市構造そのものへの介入に近い。
黄色いチューブが映す過密都市
環状線は高架路線だが、開放的な景色は少ない。
住宅街との距離があまりに近いため、
路線の大部分は高い防音壁に覆われている。
外を見るというより、
巨大な黄色いチューブの中を
高速で移動している感覚に近い。
窓の外すぐそこまでマンションが迫る。
この「見えない景色」こそが、
成熟した過密都市・新北のリアルな断面だと思う。
それでも、防音壁が途切れる瞬間がある。
河川敷や大きな交差点。
その一瞬だけ、視界がぱっと開ける。
閉塞と開放のコントラストは強く、
むしろ印象に残る。
面になろうとした都市の途中
環状線は、完成形ではない。
分割され、遅れ、何度も先送りされた計画だ。
それでも消えなかった。
この路線は、
台北が「中心に集める都市」から、
少しずつ離れようとした痕跡だと思う。
中心を通らずに済む。
それだけで、都市は少し楽になる。
黄色い防音壁の内側を走りながら、
都市が抱え込んだ密度を、そのまま通過する。
環状線は、
台北が面になろうとした、その途中の記録だ。
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